しじま

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6/6/2024, 7:30:46 PM

 そう言えば、昔飼っていた犬の名前は評判が良くなかったな。

生まれたばかりで、か細い泣き声を上げる我が子の顔を妻のベッドに腰を下ろして眺めている時に、ふと思い出した。

 なんて名前を付けたんだっけ。

「よしよし」と我が子を抱き上げると、小さい割にズッシリと重みのある、その身体を両腕で包み込む。

この子は将来ビッグになるぞ、なんたって妻と俺の子なんだから。

「名前はもう決めましたか?」

産後で少々やつれた顔をしている妻が微笑む。

「いや、顔を見てから考えようと思ってたから、

一番最初のプレゼントだからね、最高なのを贈りたいじゃないか!」

何も思い浮かばなかっただなんてバレたら、命名権を剥奪されてしまう……。

「良い名前を付けてくださいね、奇をてらうようなものだけは「わかってるとも!」、お願いしますよ?」

胡乱げな妻の目に背中を向けて、ほにゃほにゃの我が子の顔をしげしげと見つめる。

まだ、どちら似かはよくわからないが、何となーく妻よりの顔立ち。よかった。

これはハンサムでビッグな男になるに違いない!

それならやっぱり、勇ましい名前が良いよな!

 そう言えば、あの犬はオスなのに臆病で自分よりも遥かに小さな犬にすら弱腰だった。

まて、今は我が子の名前を考えねば!

 それからちょっとマヌケで、自分で隠したおやつの骨の在処を忘れて、よく狐に取られていたっけなあ。

……そうだ、思い出した!

「ピケマル「却下です」ちがっ、違う!今のなし!ノーカン!」

結局、妻が名付けた。

テーマ「最悪」

6/5/2024, 9:55:39 AM

今日も定時で上がり、出された食事を平らげて、床にゴロゴロ。

部屋の隅に置かれた新しいおもちゃの匂いを嗅いだり、隣の部屋の掃除をしている兄貴を格子越しに観察。

暇なのでチョイチョイと格子から手を出して、さかさかと動く兄貴にちょっかいをかける。

それに気づいた兄貴が持っていた箒をシュシュッと動かして応戦。

パタパタ〜シュッと魅惑的な動き、兄貴はテクニシャンだ。

が、しかし、今日のオレはとても調子が良い。

箒をバシッと捕まえて、兄貴の手からもぎ取った。

テーマ「狭い部屋」

6/4/2024, 7:40:19 AM

遊びに行くと、いつもお菓子をくれる、坂の下のお姉さん。

大きくなったらお姉さんと結婚する。

そう言ったら、お姉さんはビックリした後、笑って「ありがとう、君が大人になるまで待ってるね」と言ってくれた。

嬉しかった。

嬉しくて、家までの急な坂道と長い石段をワーワー叫びながら駆け上がった。

家の台所にかかっているカレンダーを捲くって、一日ずつクレヨンで塗り潰しながら、大人になるまであと何日かかるんだろう、と指折り数えて考えた。

お姉さんは、次の年、あの夏の夜に、死んだ。

テーマ「失恋」

6/2/2024, 5:40:40 AM

 昨日も今日も雨が降って、心身ともにブルー。

を通り越してバイオレット。

ウルトラバイオレット。

 ベッドの中、のたのたと寝返りをうってシーツに埋もれていたスマホを探り当てる。

画面の眩しさに痛む目を、それでも薄く開けて時計を確認。

午前五時、ふああと欠伸をしながら身体も大きく伸ばす。

 本当はもう少しだけ寝ていたいけれど、寝過ごしたら大変だから、仕方ないので起床。

重たい頭を何とか持ち上げて、ゆらゆら揺れる視界に目を瞑っては開いてを繰り返して。

 湿気のせいでウネウネとうねにうねる髪の毛をそのままに、怠い身体を動かしてベッドから這い出た。

テーマ「梅雨」

6/1/2024, 8:06:32 AM

 またやってしまった。

書庫の整理をしていたら、年季の入ったスクラップブックがバラけて中身が床に散らばってしまった。

明かり採りの小さな天窓から射し込む陽に、埃がチリリと輝きながら舞い上がる。

黄ばんだ紙面を日付順に重ねていきながらも、ついつい記事の内容に目が行ってしまう。

植物園で珍しい花が咲いた、農場で双子の仔牛が産まれた等、取り留めのない日常の一コマのような記事ばかり。

君が生まれる前の日付なので、ご両親の何方かの物なんだろう、と思いながら一枚ずつ拾っていく。

と、サーカスのライオンが脱走した、という記事の次、色褪せたセピア色の写真が数枚。

どの写真も、生まれたばかりの赤ん坊の君が写ってた。

……貰っておこう。

テーマ「無垢」

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