しじま

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2/26/2024, 5:50:39 PM

 苺狩りに興味津々な君を連れて、ちょっと遠いが馴染みの観光農園に車を走らせた。

途中に点在するサービスエリアで君の機嫌を回復させつつ進むこと二時間、目的地に到着。

 君には思う存分苺を楽しんでほしいから、一棟まるごと貸し切りにしたよ。

「人気ないんですね」と機嫌の悪さからか失礼なことを言う君に、苺の採り方をレクチャー、種まで真っ赤に色づいた完熟の苺を採ってみせる。

「変な形、食べても大丈夫なんですか?」そう言い終わる前に君の口腔に特大の二番果をねじ込んでやった。

 文句は食べてから言いなさい。

テーマ「君は今」

2/24/2024, 5:21:01 PM

生まれた時は、みんな小さくて可愛い。

動かないし、甲斐甲斐しく世話をしなければ、死んでしまう。

少しずつ大きくなって、肉塊から生物っぽくなっていく。

歩いて、お喋りするようになったら、もう大変だ。

自分の付属パーツだと、ステータスアップするためのアクセサリだと思っていたのに。

自分の好き勝手に出来る人形だと思っていたのに。

思い通りにならない、言うことを聞かない。

どこも自分に似ていない。

不快、不愉快、不潔。

嗚呼、不運だ。

産むんじゃなかった、こんなゴミ。

お前なんかもう要らない、目障りだから消えてちょうだい。

ズタボロにした玩具、汚いから焼却炉へポイ。

今度は、もっと可愛いのを造ろ。

テーマ「小さな命」

2/23/2024, 8:05:26 AM

風のない早朝。

予報ではこの先一週間ほど晴れ続きだ。

農薬散布には絶好のタイミング。

紫がかったアンズの枝にチラホラと紅色の玉。

野球の硬式ボール位の大きさの実が、今年も成ってくれると嬉しいな。

帽子にゴーグル、マスク代わりの手拭いを鼻から口までグルグルと巻いて。

完全武装で散布機に手を伸ばす。

テーマ「太陽のような」

2/22/2024, 5:42:41 AM

完全に何もない所からのスタート。

どんなに過酷なことだろうか。

雨風を凌ぐ物も、寄る辺も友も無く、知識も経験もない。

今どき流行りの物語のように、助けてくれるモブやヒロインは存在しない。

素手で穴を掘り、夜が明けるのを狭い穴の中で縮こまって待つ。

干乾びたパンの欠片をチビチビ齧りながら。

テーマ「0からの」

2/20/2024, 4:50:05 PM

 下取りセール開催中とのことで、ちょっと性能の良い体重計を買ってみた。型落ちだけど。

体脂肪率が結構な精度で解るやつ。

試しに乗っかってみると身体年齢は二十代、体脂肪も基準値以内だった。

 朝のウォーキングってかなり効果的なんだな、なんて思いながら体重計から降りると、洗面所のドアの隙間から君の恨めしそうな顔。

「おかえり」

 ……そういやあ、腹周りがブニってきたとか言ってたな。

ただいまの挨拶もそこそこに、道端の雑草を見るような目で我が家のニューフェイスである体重計を睨む君。

「『量るだけダイエット』っていうのが有るらしいよ」

 恐る恐る言えば、キッと此方を向いた君が口を開いたところで、キッチンの炊飯器が音痴なアマリリスを奏でた。

 これ幸いとキッチンに捌けて夕飯の支度、今夜はレンコンのはさみ揚げ。

大きなレンコンを、割らないように気をつけながらザクザクと包丁を入れていたら、洗面所から君の何とも情けない叫び声が谺した。

 ……揚げじゃなくて、蒸しにしようかな?

テーマ「同情」

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