苺狩りに興味津々な君を連れて、ちょっと遠いが馴染みの観光農園に車を走らせた。
途中に点在するサービスエリアで君の機嫌を回復させつつ進むこと二時間、目的地に到着。
君には思う存分苺を楽しんでほしいから、一棟まるごと貸し切りにしたよ。
「人気ないんですね」と機嫌の悪さからか失礼なことを言う君に、苺の採り方をレクチャー、種まで真っ赤に色づいた完熟の苺を採ってみせる。
「変な形、食べても大丈夫なんですか?」そう言い終わる前に君の口腔に特大の二番果をねじ込んでやった。
文句は食べてから言いなさい。
テーマ「君は今」
生まれた時は、みんな小さくて可愛い。
動かないし、甲斐甲斐しく世話をしなければ、死んでしまう。
少しずつ大きくなって、肉塊から生物っぽくなっていく。
歩いて、お喋りするようになったら、もう大変だ。
自分の付属パーツだと、ステータスアップするためのアクセサリだと思っていたのに。
自分の好き勝手に出来る人形だと思っていたのに。
思い通りにならない、言うことを聞かない。
どこも自分に似ていない。
不快、不愉快、不潔。
嗚呼、不運だ。
産むんじゃなかった、こんなゴミ。
お前なんかもう要らない、目障りだから消えてちょうだい。
ズタボロにした玩具、汚いから焼却炉へポイ。
今度は、もっと可愛いのを造ろ。
テーマ「小さな命」
風のない早朝。
予報ではこの先一週間ほど晴れ続きだ。
農薬散布には絶好のタイミング。
紫がかったアンズの枝にチラホラと紅色の玉。
野球の硬式ボール位の大きさの実が、今年も成ってくれると嬉しいな。
帽子にゴーグル、マスク代わりの手拭いを鼻から口までグルグルと巻いて。
完全武装で散布機に手を伸ばす。
テーマ「太陽のような」
完全に何もない所からのスタート。
どんなに過酷なことだろうか。
雨風を凌ぐ物も、寄る辺も友も無く、知識も経験もない。
今どき流行りの物語のように、助けてくれるモブやヒロインは存在しない。
素手で穴を掘り、夜が明けるのを狭い穴の中で縮こまって待つ。
干乾びたパンの欠片をチビチビ齧りながら。
テーマ「0からの」
下取りセール開催中とのことで、ちょっと性能の良い体重計を買ってみた。型落ちだけど。
体脂肪率が結構な精度で解るやつ。
試しに乗っかってみると身体年齢は二十代、体脂肪も基準値以内だった。
朝のウォーキングってかなり効果的なんだな、なんて思いながら体重計から降りると、洗面所のドアの隙間から君の恨めしそうな顔。
「おかえり」
……そういやあ、腹周りがブニってきたとか言ってたな。
ただいまの挨拶もそこそこに、道端の雑草を見るような目で我が家のニューフェイスである体重計を睨む君。
「『量るだけダイエット』っていうのが有るらしいよ」
恐る恐る言えば、キッと此方を向いた君が口を開いたところで、キッチンの炊飯器が音痴なアマリリスを奏でた。
これ幸いとキッチンに捌けて夕飯の支度、今夜はレンコンのはさみ揚げ。
大きなレンコンを、割らないように気をつけながらザクザクと包丁を入れていたら、洗面所から君の何とも情けない叫び声が谺した。
……揚げじゃなくて、蒸しにしようかな?
テーマ「同情」