下取りセール開催中とのことで、ちょっと性能の良い体重計を買ってみた。型落ちだけど。
体脂肪率が結構な精度で解るやつ。
試しに乗っかってみると身体年齢は二十代、体脂肪も基準値以内だった。
朝のウォーキングってかなり効果的なんだな、なんて思いながら体重計から降りると、洗面所のドアの隙間から君の恨めしそうな顔。
「おかえり」
……そういやあ、腹周りがブニってきたとか言ってたな。
ただいまの挨拶もそこそこに、道端の雑草を見るような目で我が家のニューフェイスである体重計を睨む君。
「『量るだけダイエット』っていうのが有るらしいよ」
恐る恐る言えば、キッと此方を向いた君が口を開いたところで、キッチンの炊飯器が音痴なアマリリスを奏でた。
これ幸いとキッチンに捌けて夕飯の支度、今夜はレンコンのはさみ揚げ。
大きなレンコンを、割らないように気をつけながらザクザクと包丁を入れていたら、洗面所から君の何とも情けない叫び声が谺した。
……揚げじゃなくて、蒸しにしようかな?
テーマ「同情」
深夜、家族が寝静まってから私は動いた。
自室のドアを音が出ないようにゆっくりと半分だけ開けて、スルリと抜け出す。
真っ暗な廊下を抜き足差し足、何処からともなくトテトテと近寄ってきた飼い猫に「しー」と人差し指を立てながらキッチンへ。
途中、トイレに起きてきた父親を壁に貼りつき気配を消してやり過ごして、父親が用を足しているスキに両親の寝室を横切った。
キッチンに到着、しかし、まだ電気はつけない。
父親が寝室に戻るまでは暗闇の中、息を殺して待機する。
成長期だからしょうがないのだ、どうしても小腹が空いてしまうのだ。
○清のカップヌードルを貪りたいお年頃、それと時間帯なのだ。
さあ、さっさと寝に行ってくれ父よ。
はやく食べ「うわぁっ、ビックリしたな、もう、電気くらいつけなよ?」
くそっ、今夜は失敗だ!
テーマ「今日にさよなら」
ウォーキングの道すがら、公園の噴水広場とグラウンドの一角でボロ市――いい感じの言葉で言えばフリーマーケット――が開催されていた。
駅から少しだけ遠い立地にも拘らず大盛況、臨時で置かれたベンチには一足先に戦利品をゲットした人達が休憩している。
潔癖の気がある君は素通りすると思ったのだが、意外にも興味が惹かれたようで「見ていこう」と手を牽かれて。
色とりどりのタープやパラソルの下、所狭しと置かれたガラクタの山にキラキラと目を輝かせている君を見て悟った。
どうやら、物欲が無い訳ではないようだ。
生活必需品意外ほぼ買ってこないのは、君のストライクゾーンが針穴のような狭さだからか。
今も、何に使うのかサッパリ分からない、鉄製のハサミのような物を握ったり、ひっくり返して見たりしている。
……買うの?ソレ。
そう君に問えば、そのハサミのような物体をカチカチいわせながら、コクリと君は頷いた。
テーマ「お気に入り」
白紙。
そうか、私は――。
テーマ「十年後の私から届いた手紙」
いつもお世話になっている上役のあの人へ。
チョコレートのかかったマドレーヌを。
普段は受け取ってくれないけれど、今日はタイミング良くティーブレークしていて。
「紅茶のお供に」とバッと差し出したら、受け取ってくれた。
嬉しい。今なら、目の前の窓から飛び降りて、シュパッと華麗なトーマスを披露出来そう。
そのくらい、嬉しい。
テーマ「バレンタイン」