しじま

Open App
1/22/2024, 7:57:30 AM

学校の遠足ではないけども、お出かけの前日の準備はワクワクする。

おやつは何を持っていこう、とか、お昼ごはんは何処で食べようか、なんて。

学生の頃より遥かに減った荷物を、お気に入りのカバンに詰めていく。

チョコ、ラムネ、柿ピー、ジャーキー、チータラ、ポテチに五家宝。

どんだけ遠くに行くつもりなんだ。

君の呆れたような声が背後から聞こえた。

テーマ「特別な夜」

1/21/2024, 6:22:01 AM

良い人、優しい人、と良く言われる。

とても嬉しい、だって中身が上手く隠せているってコトだから。

殺人衝動も他者への憎悪に嗜虐心、全て内に潜ませて悟られていないということだから。

今だって必死に抑えてるよ、私は“まだ”良い人だ。

でも、この先は分からない。

鎖を引き千切る愚か者が目の前に現れるかも知れない。

その時は、存分に愉しもうと思う。

私は、そこまで優しい人ではないから。

テーマ「海の底」

1/20/2024, 4:34:15 AM

寒空の下、辺りを見回しながら独りトボトボと歩く。

上着のポケットには煮干しとチュル。

心許ないソレをポケットの中で握りしめて、車の下や植込みの中、塀の中を覗き込む。

不審者通報されても構わない、既に警察には届け出を出しているから。

ダンゴになって暖をとっていた一団に聞いてみたりもするが、知らぬ存ぜぬと目を細めるばかり。

何処へ行ってしまったのか。

立ち竦み途方に暮れる私の足の間を何かがすり抜けた。

聞き慣れた君の声。

ピンと立てた尾をクネクネさせながら君が足元で鳴いた。


テーマ「君に会いたくて」

1/18/2024, 6:35:00 AM

 カカオ豆をすり鉢で擦って擦って擦りまくるとチョコレートが出来るんだよ。

仕事から帰ってくるとダイニングテーブルにすりこぎで一心不乱に茶色い物をゴリゴリと擦っていた。

 ゴリゴリゴリゴリ。

いつからやっていたのか、冬だというのに額から汗をダラダラ滴らせて、爛々とした目を向けてくる君。笑顔がちょっとだけ怖い。

そうかそうか、と適当な相槌を打って自室に一時撤退。

ドアの外から微かに聞こえるゴリゴリ音に、どうしようかと頭を抱えた。

伝えるべき?

チョコレートじゃなくてカカオマスが出来るよ、って。

テーマ「木枯らし」

1/17/2024, 8:35:42 AM

母の洋服箪笥から父の手帳が出てきた。

所どころ塗りが剥げて黄ばんだ地の浮き出た革張りの手帳。

年季は入っているがカビの形跡は無い、時々母が拭いてやっていたのだろう。

晩年、父との関係は良好とも険悪とも言えない、よくある父と息子という微妙なもので。

同じ家に住んでいるにも拘らず会話といえば挨拶や「風呂沸いたって」等の実に簡素なものだった。

何を考えているのかサッパリ分からない、父も自分のことをそう思っていたに違いない。

パラパラと手帳を捲っていく。

黄ばんだ紙面に書かれた文字、達筆過ぎて何が書いてあるのかは分からなかった。

テーマ「美しい」

Next