しじま

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1/21/2024, 6:22:01 AM

良い人、優しい人、と良く言われる。

とても嬉しい、だって中身が上手く隠せているってコトだから。

殺人衝動も他者への憎悪に嗜虐心、全て内に潜ませて悟られていないということだから。

今だって必死に抑えてるよ、私は“まだ”良い人だ。

でも、この先は分からない。

鎖を引き千切る愚か者が目の前に現れるかも知れない。

その時は、存分に愉しもうと思う。

私は、そこまで優しい人ではないから。

テーマ「海の底」

1/20/2024, 4:34:15 AM

寒空の下、辺りを見回しながら独りトボトボと歩く。

上着のポケットには煮干しとチュル。

心許ないソレをポケットの中で握りしめて、車の下や植込みの中、塀の中を覗き込む。

不審者通報されても構わない、既に警察には届け出を出しているから。

ダンゴになって暖をとっていた一団に聞いてみたりもするが、知らぬ存ぜぬと目を細めるばかり。

何処へ行ってしまったのか。

立ち竦み途方に暮れる私の足の間を何かがすり抜けた。

聞き慣れた君の声。

ピンと立てた尾をクネクネさせながら君が足元で鳴いた。


テーマ「君に会いたくて」

1/18/2024, 6:35:00 AM

 カカオ豆をすり鉢で擦って擦って擦りまくるとチョコレートが出来るんだよ。

仕事から帰ってくるとダイニングテーブルにすりこぎで一心不乱に茶色い物をゴリゴリと擦っていた。

 ゴリゴリゴリゴリ。

いつからやっていたのか、冬だというのに額から汗をダラダラ滴らせて、爛々とした目を向けてくる君。笑顔がちょっとだけ怖い。

そうかそうか、と適当な相槌を打って自室に一時撤退。

ドアの外から微かに聞こえるゴリゴリ音に、どうしようかと頭を抱えた。

伝えるべき?

チョコレートじゃなくてカカオマスが出来るよ、って。

テーマ「木枯らし」

1/17/2024, 8:35:42 AM

母の洋服箪笥から父の手帳が出てきた。

所どころ塗りが剥げて黄ばんだ地の浮き出た革張りの手帳。

年季は入っているがカビの形跡は無い、時々母が拭いてやっていたのだろう。

晩年、父との関係は良好とも険悪とも言えない、よくある父と息子という微妙なもので。

同じ家に住んでいるにも拘らず会話といえば挨拶や「風呂沸いたって」等の実に簡素なものだった。

何を考えているのかサッパリ分からない、父も自分のことをそう思っていたに違いない。

パラパラと手帳を捲っていく。

黄ばんだ紙面に書かれた文字、達筆過ぎて何が書いてあるのかは分からなかった。

テーマ「美しい」

1/16/2024, 6:28:42 AM

世界は狭い。

自分の通う高校に、はとこが教師として赴任してきたり。

子供の頃に一度だけ会った見知らぬ子が専門学校の同級生になって、おまけに遠い親戚だったり。

遠い国で店番をしていた女性が十年後に義姉になったりした。

世界は狭いし、言葉は呪いだ。

軽々しく再会を望むような言葉なんかを吐かないほうが良い。


テーマ「この世界は」

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