朝、何時もの時間に君を見送って朝食の後片付けをしようとキッチンの流しに向かい、ふとした拍子に顔を上げた時だった。
真っ黒いスマホケースが目の前のカウンターに、ちょこんと乗っかっている。君のだ。
わすれものっ。
一瞬フリーズして、それからアワアワと泡まみれの両手を洗って手早く水分を拭き取ると、君のスマホケースを鷲掴みにして玄関までの短い廊下を駆けた。
テーマ「どうして」
久しぶりに君の夢を見たよ。
お気に入りのティーカップに緑茶を注いで飲んでいた。
まるで紅茶を飲んでいるかのように優雅に、でも飲んでいるのは緑茶で、それが何だか面白くて可笑しくて。
クスクス笑っていたら、君がキョトンとした顔をする。
懐かしい、胸が熱くなるようなこの気持ち。
幸せ、君と居るだけで。
君さえ居てくれれば、他には何も要らないのに。
目が覚めなければ良いのにと、朝日に霧散した君の笑顔を思い出しながら目元を拭った。
テーマ「夢を見てたい」
膝の上に乗っている君の頭をナデナデ。
丸まったお尻もサスサス。
プニプニの肉球をモミモミ。
はあ、癒やされる〜。
大きく上下した腹に顔を埋めて、顔面に当る毛を楽しむ。
ワシャワシャだあ〜。
刹那、君の強烈な蹴りが、こめかみに直撃。
テーマ「ずっとこのまま」
今朝は特に寒く、室内だというのに吐く息が白く染まった。
寒い寒い。
氷上のようなフローリングを爪先立ちで歩いて、君が居るであろうキッチンへと向かう。
ヤカンに水を入れていた君の背中に貼りつき暖を取る。
シバリングが治まるまで、「おはよう」はお預けで。
お願いします。
テーマ「寒さが身に染みて」
数日前に使い切った五年連用の手帳を最初の方から見ていく。
テープで留められた飛行機のチケットと売店で買ったサンドイッチのレシート。
若干似ている似顔絵の横に君の名刺、この頃はまだ仕事でたまに顔を合わせる人という間柄で、まさか出会いから一年足らずで一緒に暮らすことになるとは思いもしなかった。
名前と共に描かれた同僚の似顔絵、サラッと書かれた第一印象に「第一印象なんて当てにならないなあ」と、クスクス笑う。
色んなことがあったな、と懐かしく思いながら頁を捲っていく。
辛いことも、楽しいことも、嬉しいことも、悲しいことも。
どれもこれも、たった数年前の出来事なのに、随分昔の事のように感じられた。
それだけ毎日が濃密だからだろう、仕事も遊びも。
君との生活も。
テーマ「20歳」