向かいの家で事件があった。
蒸し暑い空気に混じった濃い鉄の臭いに、鼻の奥がツンと痛くなる。
外の様子を、二階の自室のカーテンの隙間からそっと覗いてみた。
紺色の制服を着た警察官が、向かいの家の門に貼られた黄色と黒のシマシマのテープを潜っていくのが見える。
なんだかドラマみたい。 不謹慎だが、そう思った。
しばらく眺めていると、グゥと腹が鳴る。
時間を確認すると、疾っくの疾うに昼飯時は過ぎていて、おやつの時間に近かった。
外に食べに行くのも億劫なので適当に出前を頼みながら階段をトロトロ下りる。
便利な世の中になったなぁ、と出前が来るまでの間、一階のリビングで暫しゴロゴロ。
ふああ、と大きな欠伸と伸び一つして、フローリングの上をコロリと転がった。
テーマ「1件のLINE」
河川敷へと続く急な上り階段を息を弾ませながら上る。
スーツ姿の男性、子供の手を引く母親、杖を突き身を寄せ合いながら歩く老夫婦。
後ろから来た人達に追い抜かされていく。
あの人は、まだだろうか。
階段の中程で歩を止め、振り返る。
眼下に広がる商店街、踏切の前にあの人は居た。
まだあんなとこにいる。
気付いてもらおうと、おーい、と手を振った。
大声で名前を呼んだが、どうやら聞こえないようで店の中に入っていってしまう。
「いっておやりなさい」白いヘルメットの警備員のおじさんが赤い誘導棒を振りながら叫んだ。
青々とした草の茂る斜面を駆け下りて、あの人が居る店へ走る。
「まだ、こっちには来ちゃいけないよ」
聞き覚えのある、知らない誰かの声がした。
……もしかして、アレ、三途の川っ?!
テーマ「目が覚めると」
好きキャラ死亡率98%。
アニメでもゲームでも「このキャラ良いな」と思ったキャラは軒並み退場する。 秒で。
早期退場したキャラのグッズはだいたい出ない、悲しみが増す。
なので、ひとり寂しくノートに好きなキャラを描いたりして、たまに昔のノートを引っ張りだして眺めたりする。
ああ、このキャラ好きだったな。
なんて懐かしんだり、また新しく描いてみたり。
そのオンボロのノートが、大切な宝物なんだ。
テーマ「私の当たり前」
仕事帰り、いつものように商店街で買い物をしようと蒸し暑いアーケードを潜ると人人人、そして、賑やかな祭囃子がスピーカーから流れていた。
今日は人が多いな、と思っていたが、どうやらお祭のようだ。
所々シャッターの降りた店の前に出店が建ち並び、かき氷や綿飴、チョコバナナといった祭らしさ全開の食べ物が売られている。
小腹が空いたのでチョコバナナを一本買った。
ちょっとアレなカタチのチョコバナナを噛りつつ人混みの中、目当てのスーパーまでノロノロと歩く。
喉が渇いたので、ラムネも一本。
歩きながらポンと栓を抜いて、吹き上がりを慌てて口で受ける。
カランコロンと瓶の中で転がるビー玉が、張り巡らされた提灯の灯りを受けて、キラリと瞬いた。
テーマ「街の明かり」
打粉をしたまな板の上、うどん生地のような小さな塊を撚りをかけながら棒状に伸ばしていく。
左手を手前に右手を奥に持っていく感じだ。
ブチンと切れてしまわないように注意しながら伸ばしていって、ソレの両端を持って持ち上げる。
ネジネジになったら、油の中にポトポト落としていく。
ピチピチと油の弾ける軽やかな音。
弱火でじっくり、こんがり狐色になるまで菜箸で突っつきながら待つ。
たまにひっくり返して、狐色になったらネジネジを油の中からすくい出す。
粗熱がとれたらサクサクかりかりの、索餅の出来上がりだ。
テーマ「七夕」