小指の赤い糸は何度でも、誰とでも結びつく。
プツンと切れては、蝶々結びされて、またその結び目がスルリと解けて、他の糸と結ばれて、の繰り返し。
生まれ落ちてから、死に至るまで。
一色の長い糸に、たくさんの結び目と、鮮やかな赤のグラデーションが出来上がる。
それは、きっと、とても美しいことだろう。
テーマ「赤い糸」
君は雷が嫌いだ、少し意外。
普段はクールな君が雷の鳴っている時だけは、ソファの影でクッションを抱きしめてブランケットまで被っている。
子供みたい、思うが決して口にはしない。
窓の外が光る度に、普段は聞けない君の情けない声が上がり、笑うのを必死で堪える。
直後、凄まじい雷の音と地響きがして、流石にビックリした。
近くに落ちたみたいだ、閉め切った窓のガラスがビリビリと揺れている。
ゴロゴロピシャーンッと元気な音がする、まだまだ雷は止みそうにない。
ふと君のほうを見ると、ソファの前に置かれたローテーブルがコタツに変身していた。
思わず噴き出し、大笑いしてしまった。
テーマ「入道雲」
長々としたサイレンが、真っ暗な空に響き渡る。
辺りは水を打ったようにシン……と静まりかえり、刹那、真っ赤な火の玉が尾を引いて空へと昇っていった。
暗い空へ、身をくねらせながら天を翔ける龍の如く、ある程度の高さまでいくと、くるりと渦巻いて一瞬消える。
直後、光が弾けた。
魂までも揺さぶられるような衝撃音、キラキラと眩い輝き、人々の歓声。
夜空を真昼のように照らす、超大輪の夏の華。
視界一杯に広がるその華は、色とりどりの光を空に散らしながら、静かな闇の中へと消えていった。
テーマ「夏」
既視感。
はて、どこか聞いたことのあるような。
こんなシチュエーション、前にもあったな。
この言葉、なんか言った覚えがある気がする。
何時だったか、何処だったか、誰にだったか。
思い出せない。
けど、そういう憶えが朧気にあるような。
いや、ないような。
うんうん唸っている内に、何にそんなことを思ったのか、キレイさっぱり忘れてしまった。
それすらも、既視感。
テーマ「ここではないどこか」
あの日は、梅雨時にしては珍しく、雲一つない快晴だった。
幼馴染みと出先で偶然再開し、昼だったのでそのまま一緒にランチをした。
観光客や学生でごった返す大通りから路地へ抜けて、個人経営だろう小ぢんまりとした喫茶店へ。
カリリンッ、と控え目なドアベルが鳴り、涼しい店内に入る。
カウンター席が六つ、テーブル席が二つ、テラス席もあるようだ。
テーブル席には既に先客が居たので、カウンター席に並んで座った。
老年の女性が「いらっしゃいませ」と持ってきてくれたメニュー表を二人して暫しにらめっこ。
悩みに悩んで結局アイスコーヒーとランチセットのAを二つ頼んだ。
出されたランチを食べながら、色々と話をした。
家族のこと、仕事のこと、趣味のことを。
ボリュームたっぷりなランチを平らげた君が食後のデザートと、追加でアイスクリームを頼む。
幸せそうにアイスクリームを頬張っていた君の顔が印象的だった。
午後も仕事だ、二人で駅前まで歩いて、他愛もない話をしながら、改札で別れた。
バイバイと手を振る君に、またねと手を振り返した。
一月も経たない内に、君が亡くなったと御両親から報せが入った。
テーマ「君と最後に会った日」