しじま

Open App
6/6/2023, 1:55:31 PM

 君が泣いていた。

キッチンの煌々と輝る明かりの下、フライパンの上のハンバーグがジリジリと焦げていくのも構うことなく。

 ぼたぼたと流れ落ちる涙、声を押し殺して静かに泣く君を。
暗いリビングの一角に佇んで、ただ、君のことを見ていた。

 出来ることなら今すぐ抱きしめたい、「ただいま」と言ってドアを開けて、ハンバーグを見て子供のように喜んで、君と一緒に食べたかった。

 でも、もう何も出来ない。

君と笑い合うことも、君の涙を拭ってやることも、君と食卓を囲むことも、君と同じ時を歩んでいくことも。

 君に謝ることさえ、もう出来ない。

死んじゃったから。

 ピーッと音が鳴って火が消えた、ハンバーグは黒焦げとなっていたが、君は気付かず泣き続ける。

 ごめんね、こんなに早くお別れだなんて。

もっと一緒に居たかった、もっと君の手料理をたくさん食べたかった、もっと君と。

 ずっと、ふたり諸白髪までって。
約束を破って、ごめんなさい。

 君の居る光がどんどん遠ざかっていく、別れの時がきたんだ。

 あいしてるよ、だれよりも、きみを。

きっと届くと信じて、ありったけの想いを君に送る。刹那、パチンと弾けて消えた。

 黒焦げになったハンバーグをひとり齧る。
ぐずぐずと鼻を啜りながら。

 夏も近いというのに、掃き出し窓からは冷えた夜風が吹き込み、ぼんやりと白いレースを揺らしていた。

テーマ「最悪」

6/5/2023, 11:16:49 AM

 何でもかんでも否定する奴がいた。

諦めろ、お前じゃムリ、時間のムダ。

何時も何時も、そういうネガティブなことを言う奴だ。皆から嫌われていた。

 しかし、ムカつくことに奴は教頭。

取り巻きみたいな先生達は、言い返せないようで役立たず。

 運動会の日、奴が倒れた。

眼瞼下垂気味な目を見開き、口からはブクブク泡を吐き散らして、魚みたいにビチビチと跳ねている。

先生達が右往左往して、保護者はザワザワ。

低学年の子は泣いてる子も居たが、高学年はお祭り騒ぎ。

 諦めろ、時間のムダだ。

教頭の口癖を大合唱、思わず先生達の動きが止まる。

知らない大人が止めろと言うが日頃の恨みだ、誰も聞く耳持たず声量が増していく。

 救急車が到着したときには教頭は痛んだ豚肉みたいな色になってた。

 いつものお茶に毒が入ってたんだってさ。

いったい誰が入れたんだろうね。

テーマ「誰にも言えない秘密」

6/4/2023, 5:30:16 PM

 さくり、さくり、と3ミリ厚のバルサ材をナイフで丁寧に切っていく。
切り過ぎないように、割ってしまわないように慎重に。

 緩やかな曲線を切り終えて、詰めていた息をふぅ、と吐いた。

 ようやく一枚切り出せた。
作っているのはミニチュアの飾り棚。

 完成したら既に作ってある小さな本や置物を飾って、リビングの棚の一区画に設けたドールハウスに設置する予定だ。

 一枚切れたら後は早い、サクサクと必要な数を切り出して研磨、ボンドで接着する。

 だいぶ端折ったけど完成。
色にこだわりは無いのでフローリング用の色付きニスをササッと塗った。

 リビングのドールハウスの空いているスペースに設置して眺める。
ベッドやテーブルにイス、本棚、飾り棚と一通りの家具は作った。

 次は何を作ろうか、心弾ませながら自室へと戻っていった。

テーマ「狭い部屋」

6/3/2023, 5:45:55 PM

 布団の中でパチリと目を開けた。
真っ暗な室内、まだ朝は遠いようだ。

何だろな、と思っていたら部屋のタンスがカタカタ鳴った。
地震だ。 ゆら〜りゆらりと揺りかごのように数秒揺れて、すん……と収まった。

胸のドキドキを治める為、枕元の水を一口飲み、ハアと息を吐く。
手元のスマホで地震情報を確認して、大したことないようだと一安心。

……何だか目が冴えてしまったのでそのままスマホいじる。
前日のバラエティのコタツ記事、さっきの地震のニュース、外国のほっこり動物ニュース。

いい感じに睡魔がやってきたようで、大きな欠伸が出た。よし、寝るかな。

寝る前に時間を確認しているとニュースの通知が着る。

 俳優の結婚速報。

ファンクラブに入る位に大好きな俳優さんだった。 うそだろ。

睡魔は何処かにぶっ飛んでいった。

テーマ「失恋」

6/2/2023, 3:42:16 PM

 散歩中の犬が撒かれていた毒餌を食べて死んだ、というニュースが流れるたびに疑問に思う。
 何故、口輪をしないのか。

100%防げる訳ではないが、誤食する割合を減らすことが出来るというのに。

 理解不能、なので犬飼いの同僚に聞いてみた。

何故、散歩中に口輪を装着しないのか。

 即答、虐待してるみたいで可哀想だから。

失笑する、可哀想だって。

 次いで、口輪をしていると映えないから。

口輪を薦めると、ウチは躾をしっかりしているので大丈夫です、と半笑いの同僚。

 もし毒餌食って死んでも、また買えば良いもんな。

どうせ、量産品なんだろ。

そう吐き捨てると、同僚は怒って自分の席に戻っていった。

 後日、ウチの子ですと見せてもらった画像には、紀州っぽい真っ白い雑種犬が一頭、両脇に小さな白い羽の付いた口輪を装着していた。

ああ、よかった、かわいそうな犬が一頭減ったようだ。

テーマ「正直」

Next