君が泣いていた。
キッチンの煌々と輝る明かりの下、フライパンの上のハンバーグがジリジリと焦げていくのも構うことなく。
ぼたぼたと流れ落ちる涙、声を押し殺して静かに泣く君を。
暗いリビングの一角に佇んで、ただ、君のことを見ていた。
出来ることなら今すぐ抱きしめたい、「ただいま」と言ってドアを開けて、ハンバーグを見て子供のように喜んで、君と一緒に食べたかった。
でも、もう何も出来ない。
君と笑い合うことも、君の涙を拭ってやることも、君と食卓を囲むことも、君と同じ時を歩んでいくことも。
君に謝ることさえ、もう出来ない。
死んじゃったから。
ピーッと音が鳴って火が消えた、ハンバーグは黒焦げとなっていたが、君は気付かず泣き続ける。
ごめんね、こんなに早くお別れだなんて。
もっと一緒に居たかった、もっと君の手料理をたくさん食べたかった、もっと君と。
ずっと、ふたり諸白髪までって。
約束を破って、ごめんなさい。
君の居る光がどんどん遠ざかっていく、別れの時がきたんだ。
あいしてるよ、だれよりも、きみを。
きっと届くと信じて、ありったけの想いを君に送る。刹那、パチンと弾けて消えた。
黒焦げになったハンバーグをひとり齧る。
ぐずぐずと鼻を啜りながら。
夏も近いというのに、掃き出し窓からは冷えた夜風が吹き込み、ぼんやりと白いレースを揺らしていた。
テーマ「最悪」
6/6/2023, 1:55:31 PM