私を叩く時は、強めにしてください。
優しく撫でるようにするのも構いませんが、それでは私は力を発揮出来ないかもしれません。
私は痛みを感じません、ですので思う存分叩いてください。
遠くまで、私の声をアナタの思いを、届ける為に。
きっと、それで救われる人がいるでしょう。
私を叩いてください、私の音を響かせてください。
いつか朽ち果てる、その日まで。
私は、ただのピアノですから。
テーマ「優しくしないで」
ペトペトと、キャンバスに何色かの絵の具を落としていく。
無造作に、しかし、同じ色が隣同士にならないように。
少々硬い絵の具には水分を足して、面相筆にとって軽く振り落とす。
人差し指、指の腹でもって円を描きながら絵の具をキャンバスに伸ばしていく。
隅々まで満遍なく行き渡るように、くるくるくるくる。
疲れたら指を変えて、絵の具を足しつつ、くるくるくるくる。
マーブル模様の下地が出来たので乾くまで少し置く、その間に指先をキレイに拭き取ってから一息吐こうとカップの水を口にした。
直後、ベエッと吐き出してタオルで舌を拭う。
これ、絵の具の水だっ。
テーマ「カラフル」
見渡す限りの草原へ、男女が手を取り合って走っていく。
黄金の太陽のもと、去っていく背をいつまでも眺めていた。
これで何組目だろうか。
造っても造っても、アレらは外に行ってしまう。
辛く苦しいばかりの外に憧れて、何も知らずに出ていくのだ。心底嬉しそうに。
直ぐに死ぬだろう、が私には既に関係のないことだ。
また、造るとするか。
次こそは、と儚い祈りを込めて。
テーマ「楽園」
ばかやろー。 ばかやろー。
昼飯時、ひやむぎをズルルと啜っていると、開け放した掃き出し窓から潮風とともに聞こえてきた。
ば〜か。 ば〜か。
またこの季節がやってきたか、と辟易する。
少し暑くなってくると人々は海に繰り出し、こぞって水平線に向かって叫ぶ。
日頃は出せない大声悪口等を吐き出す、さぞ気持ちの良いことだろう。
じょーしのくそー。 はげろー。
その声、全部我が家に来てるよ。
テーマ「風に乗って」
早朝、六時。
ジリリリと、けたたましい音を吐き出す目覚まし時計に、本日も叩き起こされた。
顎が外れそうなくらい大きなアクビをしつつ、全身を伸ばす。
ついでに煩い目覚まし時計を黙らすべく、ベシンと頭をひっぱたく。
サッと身軽に起きたいのだが、ひんやりスベスベの触感をもう少し堪能したい。
暫し、左右にゴロゴロ、ゴロゴロ。
サイコーだ、ともう一度伸びて目を閉じる。
よし、起きようかな。
パチと瞼を開けると、既に時計の針は真上を指しているのだった。
テーマ「刹那」