アリとキリギリス、どっちがいい?
先生に聞かれたので答えるとバツをもらった。
クラスの全員が花丸をもらった。
その時、バカらしいと心底思い、それから他人を信じなくなった。
アリとキリギリス、どっちがいい?
生まれて死ぬまで働き詰めで、死んだらボットン便所みたいな墓穴に投げ捨てられるアリと。
ひと夏の命、常に捕食者から逃げ回る日々だが、自分の血を残すことができるキリギリス。
よかったね、みんなののぞんだせかいになったよ。
テーマ「大切なもの」
毎日、毎日、ちょっとしたウソをつく。
うれしい、たのしい、すごいね、おめでとう。
本当は、これっぽっちも思っちゃいない。
妬ましい、羨ましい、アイツだけ、ワタシだけ。
本音を包み隠して、優しいウソで塗り固めて。
その重い鎧に、いつか押しつぶされてしまうのではと、恐々と今日もウソを積み重ねる。
そうして本当の自分も忘れて、騙して、どうにかこうにか、人並みに人間をやっていく。
テーマ「エイプリルフール」
はじめましては赤ん坊のとき。
お母さんに抱きしめられて、君は眠っていた。
すやすやとしあわせそうに。
小さくて、どうしてしまおうかと思ったよ。
つぎは、七五三のとき。
かわいい着物姿、家族皆に慈しまれて少々ワンパクだった。
貰おうとしたけど、取らないでとお願いされたから我慢した。
大学受験の合格をお願いされたときは、困ったけれど、ちゃんと合格できて良かったね。
それは、君の実力だよ。
成人式の振り袖、綺麗だった。
もう立派なレデイなんだから、大口開けて笑っちゃだめだよ。
てっきり、もう来ないと思っていたよ。
振り袖も綺麗だったけど、角隠しも似合っているね。
泣かないで、笑って。
今日は、とっても嬉しい日なんだから。
はるか遠くに居る君の、幸せを祈っているよ。
ここで、ずっと。
テーマ「幸せに」
大好きな君が、なんだか元気がないような気がした。
ただいま、と帰ってくるなりソファに突っ伏し動かない君に、おかえりなさい、とフサフサの身体を擦り寄せる。
たいていのばあい、これでご機嫌になる君が今日は無反応。
滅多にしない頭突きも披露するが、これまた無視。さすがにしんぱいだ。
ゴロゴロと喉をならして、背中にゆっくりと乗っかって、ふみふみとマッサージをする。
そして、どうしたのと鳴けば、ようやく君は少しだけ笑ってくれた。よかった。
背中から退くと、上体を起こした君が優しい手つきで下顎をワシャワシャと掻いてくれる。
お返しに手の甲をなめる、ちょっとへんな味がするけど。
そのまま、ソファでコロンコロンと寝返りを打ちながら、両前足の指を広げ、しかし爪は出さないように肉球を見せつける。
この状態で指先だけをクイッとする、君が一番よろこぶ仕草。
これをすると顔面がだいぶ、おかしなことになっているけど、たぶん君は気づいてないだろう。
ネコってタイヘンなのさ。
テーマ「何気ないふり」
栗毛のキレイな仔だった。
バカみたいに寒い冬の、嵐の夜に産まれた。
白い湯気の立つ濡れた肢体が、白熱球の淡いオレンジの光に照らされて、ピカピカと輝いていた。
美しい仔だった。
金色のたてがみを靡かせて仲間と共に草原を駆ける様は、まるで絵画から飛び出てきたかの如く優雅でどこか気品が感じられた。
気の強い仔だった。
目一杯に地を蹴り、時には噛みついて、相手を追い抜き、誰よりも前を走る。
自分よりも大きい相手にも果敢に挑む姿は、さながら猛獣のようだと思った。
人が大好きな仔だった。
大歓声の中、青々とした芝の上を金色の光となって駆け抜けた。
とても賢くて優しくて美しい仔だった。
何度も何度も歓声が上がり、それに答えるように首を上下し、跳ねるように軽やかに駆ける。
あの日の美しい輝きが今も目に焼きついて離れない。
テーマ「ハッピーエンド」