誕生日には、プリンを作る。
たまごと砂糖、牛乳に少量の香料を混ぜて、お鍋でじっくり湯煎。
できたてホヤホヤの熱いプリンにカラメルソースをかけて、スプーンで薄く掬って食べる。
口の中でトロリととろける、甘くて少しほろ苦い味に「また一つ、年をとった」と口が綻んだ。
おやつにと買っておいたデニッシュにプリンをたっぷり乗っけて頬張る。
太るよと幻聴が聞こえたが気にしない、今日はめでたい日なのだから。
追いカラメルソース、嗚呼なんて良い響きだろうか。
溢れないように少しだけ上を向いて口に運ぶ。
毎年、誕生日には母がプリンを作ってくれた。
台所で母と二人ならんで、鍋の火を見ていた。
でも、今年は自分で作った。
母の手つきを声を匂いを思い出しながら、じっくりと丁寧に。
何で誕生日にプリンなのかは知らないし、母の作るような味にはならなかった。
「わあ、プリンつくったの?やったー!」
ソファに寝っ転がっていた母が、鍋の中のプリンを見るやいなや小躍りをし出す。
その母の喜ぶ様を見て悟った。
テーマ「特別な存在」
日当たりの良い、小さな庭にスズランスイセンが咲いた。
ベル状の可憐な白い花、完璧な位置とサイズの緑色の点。
まるで白いスカートをはいた妖精みたいだと、遠い昔、誰かに言った。
洗いたてのスッとした香りのシーツを竿に広げ、洗濯バサミを三つ四つ。
春の風に、はたはたと揺れるシーツを眺めていると、途端、どうでも良くなった。
カラカラとガラス戸を閉め、訪れた静謐に長く息を吐くと、窓辺に敷かれた座布団に座る。
春特有のつよい風が吹く。
風に揺れるスズランスイセンが、しゃらと音を立てた気がした。
テーマ「バカみたい」
東雲色の空を見ながら、君と二人、手をつないで歩く。
君の少し音程のおかしい、けれども飴細工のように甘くキレイなハミングが融けた朝の空気を吸う。
一拍、君の手を引いて僕は駆け出した。
転ばないように、手が離れてしまわないように慎重に走った。
甘い甘いハミングが二人分の笑い声にかわる。
小さな橋を渡り、ゆるい坂を登り、階段を二段飛ばしで駆け上がった。
やがて、走り疲れて立ち止まる。
ちょっとしたでっぱりのような山の上、金色の旭に照らされた世界が目の前に広がっていた。
汗ばんだ手を握り直し、君に寄り添う。
君のハミングを聞きながら、金色にとけていく。
これほどの幸福を僕は知らない。
テーマ「二人ぼっち」