しじま

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 誕生日には、プリンを作る。

たまごと砂糖、牛乳に少量の香料を混ぜて、お鍋でじっくり湯煎。
できたてホヤホヤの熱いプリンにカラメルソースをかけて、スプーンで薄く掬って食べる。
口の中でトロリととろける、甘くて少しほろ苦い味に「また一つ、年をとった」と口が綻んだ。
 おやつにと買っておいたデニッシュにプリンをたっぷり乗っけて頬張る。
太るよと幻聴が聞こえたが気にしない、今日はめでたい日なのだから。
追いカラメルソース、嗚呼なんて良い響きだろうか。
溢れないように少しだけ上を向いて口に運ぶ。


 毎年、誕生日には母がプリンを作ってくれた。
台所で母と二人ならんで、鍋の火を見ていた。
でも、今年は自分で作った。
母の手つきを声を匂いを思い出しながら、じっくりと丁寧に。
何で誕生日にプリンなのかは知らないし、母の作るような味にはならなかった。


「わあ、プリンつくったの?やったー!」
ソファに寝っ転がっていた母が、鍋の中のプリンを見るやいなや小躍りをし出す。

その母の喜ぶ様を見て悟った。

テーマ「特別な存在」

3/23/2023, 5:35:09 PM