フレンチな木魚

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7/2/2025, 11:47:37 AM

扇風機が、重たい首を横に振りながら、ガタガタと軋んでいる。いつもは窓越しに見える濃い青緑の海面が、簾に覆われ、日差しも和らいでいる。

叔母は、季節を愉しむ人だ。夏に親戚で集まると、古いかき氷機を出してきてカルピス氷を削ったり、酢橘の輪切りを浮かべたそうめんを振る舞ってくれた。

なかでも、叔母お手製の冷やしパイナップルは格別だった。
屋台のよりうんと大きな果肉が、木の串にどっしりと刺さっていて、持つと手が沈むくらい重たい。
冷蔵庫から出されたばかりのそれは、すぐに湯気を帯びる部屋の空気を押し返す。
「冷やしパイナップル、できたよ」
そう声が掛かると、おちび達が大慌てでやってきて、大喜びでかじりつく。

今ではもう、大慌てで走り回ったりはしない。
けれど、心のなかでは変わらず、幼い頃と同じ速さで足音を鳴らしている。
冷えた果肉はきらきらと輝いていて、ファンタジーの世界にしか出てこない洞窟にある、大きなクリスタルのようだ。

6/30/2025, 2:56:21 PM

庭に面した一枚硝子の窓辺。
白く軽やかなカーテンと窓との狭間が、幼い頃の私にとって、密やかな特等席だった。

陽射しが微睡みを誘う午後のひなたぼっこ。
その緩慢な時間の流れを、私は妙に気に入っていて、
幼いなりに「こんな時間が好きだなんて、わたしってちょっと洒落てる」なんて思っていたものだ。

けれど今では、日焼けだの肌荒れだのと、面倒な理屈が先に立つ。ひなたぼっこなど、すっかり遠ざかってしまった。

そんな折、我が家に新たな家族がやってきた。
彼女は、あの頃の私とそっくりに、カーテンの内側へそっと潜り込み、ひとり丸まって陽を浴びている。
鼻の良い彼女はお日さまの匂いを感じるのだろうか。
まるで昔日のわたしを、そこに置いてきたようだった。

またたまには、カーテンの裏で、あのぬるやかな陽に身を委ねてもいいかもしれない。

6/29/2025, 4:36:46 PM

時計は1時30分を指した。

キリがいいななんて思いながら、暖かい照明の下でスマホの画面に戻る。そろそろ寝なきゃって、照明を消してスマホを枕元に伏せるとき、一瞬にして、周りの音が引いていく感じがする。

この瞬間が結構好きだ。世界に自分だけ、取り残されている感覚。

ただ音に耳を澄ませる。目を開けていても閉じていても見える景色は変わらない。目の前にあるのは深い暗闇。外の街灯のぼんやりとした微かな光が漏れ出し、その周辺だけ薄ら青く見える。

そのグラデーションに眠気を誘われて、眠りにつく。