「そろそろかな」
数ヶ月前に観測された惑星が隕石となって地球に落ちる。そういうふうにテレビで放送されたのは先月だ。それが今日、予想をはるかに上回ったスピードで地球に衝突するらしい。
ちょうどその日は生まれてからずっと一緒だった友人と会う約束をしていた。何をするにも一緒だった。だから自然と、お互いが好きなことをして過ごすのではなく、最期の時までそばにいることになった。
「なんとなくずっと一瞬にいるんだろうなって思ってたけど、本当にその通りになるなんてね。」
「でもこんな最期だとは思わなかったよね。」
「なんか来世も隣にいる気がするね、私たち。」
「ふふ、わかる。」
「来世はもっといろんな景色を見に行こうか。」
「ご飯もたくさん食べようよ。」
暗い空に幾筋もの光が灯る。アラームが鳴り響く。
私たちはどちらからともなく手を握り、肩を寄せ合いながら、来世への希望を語り合っていた。
「最悪だ」
しくじった。数々の後悔と過去の記憶が頭をよぎる。
もっと綿密な計画を立てればよかった。
あのとき見逃さなければよかった。
あのとき、こいつに戦い方なんて教えなければ。いや、そもそも出会わなければ。
最後の最後に邪魔されるなんて。
あぁ、でも。こいつと朝方まで馬鹿騒ぎしながら語り合
っていた時間は、いつもより呼吸が楽だった。こんなに
楽ならはじめから話しかけていればよかった、なんて。
一時の友人の辛そうな顔が目に入る。
今回も失敗だな。いや、大失敗か。今度はお互い最悪な結末にならないといいな。
目を開ける。隣に親友がいる。
話しかける。
「…。」
聞こえてないみたい。
「誰にも言ってないんだけど、実は私、空飛べるんだよ」
「…。」
「ねぇ!なんか言ってよ!」
見向きもしてくれない。
自分の手を見た。向こう側が見える。
「…。やっぱりダメなんだ。」
視線を親友に戻す。
彼女は静かに、涙を流していた。
大人になった。
結構いいマンションの一室を借りられるほどの
収入も入るようになった。一人暮らしのくせして
部屋がたくさんあるマンションを選んでしまった。
きっと、あの日々の思い出を詰め込めるようにだろう。
溢れ出してしまわないように。
でも、なんでだろう。空白が目立って仕方がない。
あぁ、そうか。あのままで良かったたんだ。
狭い部屋で、溢れ出るくらいの思い出を抱えていたほうが
幸せだったんだ。
もう一度、あの部屋に戻ることができたなら。
一人ぼっちじゃ、この空白を埋められない。
天を仰ぐ。澄んだ空、薫風が吹き、揺れる植木。
視線を落とす。溢れ出る赤、地面に転がっている物体。
恋をしてたんだ。君に。愛してた。何度も想いを伝えた。でも君は一度だって答えてくれたことはなかった。
別にそれでもよかった。君が自由に生きてくれていれば、僕はそれだけで幸せだった。
そう、僕が愛して、恋をしてたのは自由な君だ。
他人のものになってしまった君じゃない。
君が自由じゃないと意味がない。だから。
僕が愛した君に戻してあげる。