あなたが眠りにつく前に、私は小さく子守唄を歌う。
さあ、目を閉じて。もうなにも怖くはないわ。
あなたに仇なすものはすべて消してあげる。
あなたを貶める声が聞こえたのなら、その喉を握り潰してあげましょう。
あなたが目にする醜いものは、二度と見えないように焼き尽くしてあげる。
誰かがあなたの腕を掴むのなら、その手を切り落としてあげましょう。
あなたに邪な想いを抱く者には、私が優しく身の程を教えてあげるわ。
あなたには私がいればそれでいいの。
私があなたを守ってあげるから。
だからあなたは安心して私の腕の中でお眠りなさい。
とこしえに目覚めぬ眠りを私があなたに贈ってあげる。
【眠りにつく前に】
永遠とは、なにをもって永遠と見なされるのだろう。
永遠のいのち? 永遠の愛? 永遠の世界?
永遠なんて私は知らない。信じない。
なにごとにも必ず終りが来ることを私は知っている。
人のいのちは有限であり、いずれは等しく死を迎えるだろう。
人の思いは陽炎のように移ろい、消えゆくことさえ気づかない。
数多の星にも終焉は訪れ、やがては虚無の渦に巻き込まれていく。
永遠とはあまりにも儚いものだ。
けれど、だからといって別に悲観的には思っていない。永遠という、言葉そのものは非常に美しい。
私もかつて永遠を信じていたし、夢見ていた。
幼心に幻想(ゆめ)みるには、永遠とは綺麗な言葉だ。
ただその言葉が持つ誘惑は、人を毒するものだと忘れないで。―――決して、忘れないで。
「永遠に君を愛するよ」
そうしてあなたは私を裏切ったのだから…。
【永遠に】
なにもいらない。
あなたしかいらない。
あなたがいれば、そこが私の理想郷。
【理想郷】
古い卒業アルバムをおもむろに開いて、
在りし頃の若い君の写真を見つけた。
まだ丸みを帯びた輪郭に、まだ広い肩はない。
やんちゃな笑顔に、その目が眩しく見えて。
幼くて、拙くて、青い恋だった。
それでも確かにあった君と僕の思い出。
かつての時間に、いつかの場所に、
いまもなお消え失せることのない記憶。
だいぶ時間は経ってしまったけれども、
その関係はいびつな形に変わってしまったけれど。
ページをめくればいつでも思い出せる。
「懐かしい」と今では穏やかに話せる気がするよ。
【懐かしく思うこと】
あなたが笑う。その隣に私がいる。
他愛ない話を語りかけて、幸せを彩っていく。
小さな小さな白い家。庭には四季の花々を飾り、温かなリビングであなたの子どもとあなたを待つ。
あのときあなたを追いかけていたら、
そんな未来もあったのでしょう。
今はもう交わらないあなたと私。
これは遠い昔に筆を置いた、
読み手のいないもう一つの物語。
【もう一つの物語】