渦巻く感情の波に囚われた時は、
目を閉じて、耳を塞いで、心を遠く遠くへと飛ばす。
どこがいいか。南の島……では平凡か。
月の裏側の湖で光る水面を眺めたら、
白い魚がパシャリと跳ねた。
日々は絶え間なく、緩やかに死へと向かう道筋。
その途中で、こうした束の間の休息を摂ることも
そう悪くは無いだろう?
明日もまた笑えるように、日々が優しく彩られるように。
そう願えたら、もう眠りに落ちるだけ。
テーマ『束の間の休息』
明けゆく空の境界をなぞる鳥を眺めながら
自室のベランダで煙草に火をつける。
上手く寝付けなかったからか、妙に感傷的な気分になって
まだライターのつけ方も覚束なかったあの頃を思い出す。
「へったくそだなぁ。貸してみ?」
そう笑って私からひったくったライターに
慣れた手つきで火を灯し己の煙草に火をつけてから
「ん」
とあんたはそのまま顔を近づけてくるもんだから
私はついドギマギとしてしまって。
その時吸った煙草の味なんてとてもしやしなかった。
あれから私も老いて、この街で1人生きている。
あんたの教えてくれた煙草はきっと死ぬまで手放せないだろう。
テーマ『過ぎた日を想う』
最初に私の名前をつけたのは母か
それとも父か。
もう思い出せもしないその名に
どのような意味が込められていたのか。
少なくとも私はその名に
相応しい生き方などして来なかっただろう。
「○○!」
私を呼ぶ君の声がする。
そうだ。
君が私をそう呼んだ日から
私の本当の人生は始まったのだ。
テーマ『私の名前』
遠くで鳴った雷に
呼び起こされたそれは
遠い日の記憶
夏祭りの夜
林檎飴をせがむ私の手を握る父の手
雷と共に降り出した雨
私をおぶって駆ける父の
足元で跳ねる泥の音と大きな背中
もう思い出にしかない父の姿
遠い遠い日々の残滓
テーマ『遠い日の記憶』
目が覚めると君がそばにいる。
それが当たり前の日常
──のはずだった。
なぁ、その扉の先へ行かないでくれ。
あの時、なんて言って笑ったんだ。
君が言葉を紡ごうと息を吸い込んだ。
そこで目が覚めた。
テーマ『目が覚めると』