「毎年さー、プレゼントに悩み出すと冬が来たなーと思うんだよね」
君が通販サイトをぽちぽちしながらふと呟く。
「なんでー?」
「ハロウィンだろ。おまえの誕生日だろ。クリスマスだろ。正月だろ」
「ハロウィンと正月かんけーなくない?」
「まぁ色々物入りなわけよ」
「そんなの俺だってそーだよ。クリスマスでしょ。君の誕生日でしょ……」
「冬の風物詩だねー」
「楽しいよね?」
「ああ。楽しい」
ふたりで見つめ合ってにっこり笑った。
楽しみがいっぱいの冬がはじまるね。
▼冬になったら
付き合っている人がいても趣味趣向は違うわけで、長期休暇の旅行は気の合う友達と行ったりする。
君は君でかなりな趣味の人だからそれぞれはなればなれでもやることは山ほどある。
だけども、いやだからこそ、か。そんなあとで久しぶりに会った時はそりゃあ距離がなくなる。
会わない間に互いがやってたことを1から10までマシンガントークで喋り倒し、いつしか会話が止まって、ただただ鼻先で互いを見つめ合い、そして。
「ほんとはね、おれ、さみしかった…」
「俺も」
甘えた君のその言葉が、会話を止める合図。
その次は、秘密。
▼はなればなれ
「あ゛ーーーあああ……」
外での仕事。仲間と打ち合わせしてっとちょっと離れたところで君の悲鳴にも似た叫び声というか泣き声というかなんというか聞き慣れた声が聞こえてきた。
「…行かなくていいの?」
「…理由、わかんだろ」
まぁね、と仲間が笑う。やれやれ、そうは言っても行ってやらないと後で拗ねられる。それも可愛いけどな、と思いつつ俺は過保護だねぇと笑う仲間のところから君に近づいた。
立ち尽くす君の足元に可愛い子猫が2匹にゃん。
彼は猫が苦手なのだ(嫌いではなくあくまでも苦手と力説する)まさににっちもさっちもいかない状況。
「かーわい!」
「こ、ここの、飼い猫だって!笑顔で!係の人!去って行った!」
「まぁこの世に猫が苦手な奴がいるとは思えねーもんな。アレルギーの人ならすく立ち去るし」
「た、たちさりたい!」
でも猫は彼の足元を行ったり来たり。俺はしゃがみ込んで猫ちゃんに手を伸ばす。
「ほーれほれほれ、このおにーさんはこんなに可愛い君たちが苦手なんだよー」
子猫たちが俺の手に近づいた隙を見てささっと俺の後ろに逃げる君。俺はぷぷっとひと笑い。
「まったく、猫みたいなおにーさんなのにねぇ」
「ねこじゃないもん」
そう不貞腐れつつ俺の背に隠れる君はますます猫みたいで、みんなが見てなかったらなでなでするのになーと俺は思ったわけでした。
▼子猫
「秋どこ行った?」
今年の夏はアホみたいにいつまでも暑かった…と思いきや突然の気温低下。一気に冬だ。君はそのせいでただでさえ柔らかそうな頬をぷくぅと膨らませてる。
「おれさー、秋の風って好きなんだよねー。なんかきもちーじゃん」
「嫌いな人とかいないんじゃね」
俺がそう言うと君は確かに!ときゃっきゃっと笑った。
「それがすっかり冷たい風がぴゅーぴゅーだよー。秋なんて一瞬だっよー秋の風がこいしーよー」
「…なぁ知ってるか? 秋風が吹くって恋人関係が冷たくなるっていう意味なんだぜ」
ホントは立つだけど説明すんの面倒だから吹くって言って君の顔を覗き込む。君の頬からぷくぅがしおしおと消えていく。
「…秋、きらいになった」
▼秋風
夢を見た。
君と見つめ合う俺。君は何故か悲しい顔で俺を見つめている。
『行ってしまわれるのですね』
君が言う。よく見ると君は見たことのない古風な格好をしている。昭和の…初め?みたいな。美しい姿。
『はい。命令が下りましたので』
俺は言う。俺であって俺でない俺が。見れば俺は何かの制服を着ている。制服…いや、これは軍服だ。
君は涙を堪えてそんな俺を見つめている。
『こんな身でなかったら…あなたについて参りますのに』
『そのようなことお父上がお許しになるはずもなく。いいえ、君。どうか悲しみの顔はよしてください。これは別れではないのです。私は、君の為に往くのです』
〝俺〟は君の手を取って、その甲にそっと唇を寄せた。
『どうか笑ってください。私は必ず帰ってきます』
『必ず』
『必ず…。また、必ずお会いしましょう』
そこで目が覚めた。何故か涙が頬を流れていった。なんでだろう。確か夢を…見ていたはず。
もう、思い出せない。
▼また会いましょう