【突然の君の訪問】
現在夜、11時23分、外は雨
そんな真夜中のわたしの部屋に
無機質なチャイムが鳴り響く
見る見るドアを開けてみると、いたのは
"君"だった
「ああ、起きてたのね!お茶でも飲みましょうよ」
『来てそうそうなんだよ…まあ用意するけど』
水滴と土に塗れた雨合羽に、スコップ
君の格好には違和感しかなかった
「じゃあ、お邪魔するね」
すれ違うと異常なほどの鉄の匂いがした
もしかして、と思い、その事を口に出そうとすると
その時首にひんやりとした感触がした
見ると、君は僕の首に刃物をあてていた
「そうだ、警察に言うこと考えといてね」
わたしを襲ったのは遅すぎる胸騒ぎだった
【雨に佇む】
君の吸う煙草の匂いに飽きたから、
アパートの部屋とも言えない小さな部屋から
抜け出したんだ、傘もいらないくらい
雨が浴びたくなって
コンクリートに染みた雨が私のサンダルを
ぐしゃぐしゃに汚れてゆく
上を見上げても下を見上げても灰色
綺麗事を垂れ流したTVショーもラジオにも
付き合いきれなくて、歪んだこの目に
雫はずっと流れ落ちていく
服と肌が、ひっつきそうなぐらい濡れても、
帰る気にはなれなかった
膝を抱えたまま、ずっとそこに私はいた
私だけが不幸だってやめられなくて
ずっとずっと奥の方に汚れが溜まったままで
雨なら綺麗にしてくれるなんて、ガキみたいな
ことは思いやしないけどさ
【私の日記帳】
実家に久しぶりに帰って、
自分の部屋に行くとまるで他人の部屋に
何かを盗み入ったかのような感覚に襲われた
小さく感じる勉強机に、ホコリの被った
本棚にかけてあるもう着れないコートなど
全てが自分を懐かしさに溺れさせた
勉強机の引き出しをなんとなくがさごそ
漁っていると、なんと日記帳がでてきた
自分でも飽きっぽいのが分かっているので
書いていたのがとても嘘のように思える
日記帳のページをめくると
なんと全てのページが真っ白で何も
書いてなかった
思わず笑ってしまった
ああ、子供の自分と今の自分は変わらないなと
変わらない自分もいるが、変わってしまった
全てを思うと、少しの寂しさを散らかす
「そっかあ、もうあれから何年か…」
誇りを被ったベットに寝っ転がり
見た目は大人の少年は、眠りに落ちたのだった
【向かい合わせ】
夕焼けで思わず視界が歪みそうなあの日
白く柔いカーテンが生きて揺れている静かな教室
廊下ですれ違えば、少し話すだけの仲の君と
はじめてちゃんと話した日だった
同じ歌手が好きだということが分かり
その日の放課後、心は何かで満たされたいと
はじけていて、とてもわくわく焦っていた
机と椅子を引きずり、君と僕は
自分の話したいことを精一杯話し、また
相手の話したことを優しく受け止める
そんなあっという間な時間だった
君の黒髪に優しくオレンジの日が当たれば
僕を虜にするように、上目遣いで僕を見つめた
言葉にはできなかったけどとても、
好きというものに近い感情だったのかもしれない
しかし、それはろうそくの煙のように
ゆらゆらと消えてしまう夢であった
素晴らしいあの頃の夢、でしかない
スマホのタイマーの無機質な音に苛つく朝がきた
心までは温もりは届かないのに毛布を被る
楽しくもない毎日が今日も始まる
曇ったガラス窓に夕焼けなど差してはくれない
失った時間も、人も、なにもかも
僕には大きすぎたのかもしれない
ため息は僕を落ち着かせ、現実に引き戻す
目から流れる涙の意味は、まだ知らない