「イルミネーション」
別れる男には、花の名前を教えるといいらしい。毎年咲く花を見るたびに、自分を思い出させることができるから。
目の前に広がるのは、キラキラと輝く一面のイルミネーション。周りは家族やカップルばかりで、1人で見ているのは俺くらいだろう。4年前に別れた彼女は、毎年この場所に俺を誘った。
「また来年も、あなたと一緒にこの景色を見れますように。」
そう言って微笑む彼女の顔が、脳裏にこびり付いて離れない。彼女が俺にかけた呪いは、まだ解けてくれないみたいだ。
「愛を注いで」
私は彼のためなら何だってできる。苦手だった家事も苦ではないし、もっと綺麗になるための努力も惜しまない。
サボテンに水をやる。なんだか元気がないみたいだ。肥料をあげた方がいいかもしれない。彼との約束までまだ少し時間があるし、今から買いに行こうかしら。
彼が好きだと言ってくれた服と靴を身に着け、軽い足取りで玄関から飛び出した。
「心と心」
「言葉にせずともあなたは私のことを理解してくれる。」
「私もあなたの考えていることは手に取るようにわかるのよ。」
「私達は心と心で繋がっているのだから。」
そう言って笑う彼女の顔を、曇らせたくはなかったのに。
「どうしてわかってくれないの。」
彼女が呟いた。涙で濡れた瞳は宝石のように輝いて見えて、とても綺麗だと思った。
「君を理解できたことなんて一度もなかったよ。」
「君だってそうだろ。」
とうとう泣き崩れてしまった彼女が何を考えているのか、やっぱり僕にはわからなかった。
「何でもないフリ」
脈打つ心臓の音がやけに大きく響く。指先は氷のように冷たくなって感覚がないというのに、掌にはじっとりと汗が滲んで気持ちが悪い。溢れ出そうなものを無理矢理飲み込み、彼女に背を向けて歩き出した。踵を返すその瞬間、彼女の瞳に映る俺は、いつも通りの無表情。ひどく胸が痛むような気がするが、これは俺の勘違いだ。そう、思うことにした。
「仲間」
俺達は単なる仕事仲間だ。このミッションが終われば、もう一緒にいることもなくなるだろう。そう思っていたのに、あいつと行動を共にし始めて、どれほど長い年月が経っただろうか。とうとう俺達の目的が達成されることはなかった。血溜まりの中で息絶えたあいつは、少し笑っているように見える。まさか最期まで一緒とは思わなかったな。走馬灯のように蘇る記憶は、あいつと過ごした日々の思い出ばかりだ。薄れゆく意識の中、俺は少し笑った。