12/10/2023, 9:00:41 AM
「手を繋いで」
俺としたことが、こんな日に限って手袋を忘れてしまうなんて。コートのポケットに突っ込んだ両手を強く握りしめても、温まる気配はまるでない。震える俺の前を、仲睦まじく手を繋いだカップルが通り過ぎて行く。あいつらが手袋をしていないのはわざとだろう。そうだ、これに託けて、あの子と手を繋ぐことができるかもしれない。あの子はよく自分は体温が高いのだと言って、友達に手を握らせていた。この冷えきった真っ赤な手を振って見せれば、きっと気付いてくれるだろう。
「お待たせ!ごめんね、寒かったでしょ?」
視線を上げると、頬を染めたあの子がいた。小さな両手には、俺がプレゼントした茶色の手袋。
「ちょうど今来たところなんだ。」
俺は両手をポケットにしまったまま、背筋を伸ばして精一杯爽やかに笑った。