薄墨

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12/21/2025, 2:14:54 PM

降る雪の 如き軽らん にてもあれ
 降り積もる思い しづり雪のごと

ももとせの 大木もゆきの たまみずに
 頭たるらん ましてや思いぞ

降り積もる 思いは甍も 貫かん
 雪の重さも 積もりて知るらん

12/21/2025, 5:19:02 AM

できるだけ曲線に、を心の中で唱えながら、背をぐうん、と伸ばす。
湾曲に手を、スラリと伸ばす。
手首をくるくると回せば、リボンもヒラヒラと舞う。

爪先を柔らかく滑らせて、ステップを踏む。
膝をバネに飛び跳ね、足首をクッションに、猫のように、着地する。
その間も手首を回さなくてはならない。
回すのをやめてしまえば、リボンも止まってしまう。
手首を柔らかく回しながら、私は跳ね回り、踊る。
リボンが一緒に鮮やかに舞いながら、くるくると踊り回る。

新体操を始めたのは、リボン競技に一目惚れしたからだった。
髪に結んだリボンも、競技をしているお姉さんと一緒に舞っているリボンも、びっくりするほど美しかった。

幼かった私は、それから熱心に親に頼みこんで、新体操を始めた。
最初にリボンを手に取った時は、感動なんてありきたりな言葉しか思いつかないほど嬉しかった。
同時に悔しかった。
最初っから、記憶の中のお姉さんのように美しくは舞えなかったから。

時が経って、昔から比べれば随分大人になった私には分かる。
私はきっと、あのお姉さんのように舞えない。
あのお姉さんと私は違うタイプの人間で、演技の長所も短所も違う。
しかし、リボンを持つたびに、あの時のハッとするほど美しい演技を、それを見た時の鮮やかな感動を思い出す。

今ではもうすっかり手に馴染むリボンは、未だに私の過去と、小さい頃私が描いた未来を繋いでいる。
私の大切な宝物。
このリボンは、私にとって、時を結ぶリボンなのだ。
何よりも愛らしくて、何よりも大切な。

手首を回すとリボンもくるくると舞う。
鮮やかに。
私の時を結びながら。

12/20/2025, 8:00:57 AM

小さな手の ひらに渡された 贈り物
 とびっきりの かさつきどんぐり

「手のひらの 贈り物」だと 伝票あり
 冷凍熊の 手のひらを詰め

12/18/2025, 10:53:54 PM

弱くて柔らかいところを心の片隅に追いやって、強くあろうとする君を、変えたかっただけなんだ。
君の心の片隅にある、確かに温かい、君を救いたかっただけなんだ。

そう言ったって、君にはもう分かってもらえないと思うけど。

それは私のエゴだったかも知れないけど。

君はよく、私のところに話に来てくれていた。
私と面談して、君は悩みや苦しみを少しずつ打ち明けていてくれた。
けれど、いつも最後には(しまった!)というような顔をして、慌てて笑顔を取り繕うのだ。

私は君を助けたかった。
私は、どうにかこうにか生き抜いて大人になった。
だから、君にもどうにかこうにか生き抜いて、大人になって欲しかった。

今の真っ暗な現実が、この世の全てだと思ってほしくなかった。

私は君を変えられると思っていたのだ。
傲慢な大人だった。

連絡があって、真夜中に駆けつけた時には、もう手遅れだった。
君は自らの手で、生き抜くのを辞めてしまった。

私は、私はどうしたら良かったのだろうか。

君の心の片隅で、何があったのか私は知らない。
私は君の心の全容を知ることができなかったから。
私は私の心の片隅で未だ燻っている、君と同じような気持ちをしっかり伝えられなかったから。

人間の健全な防衛本能とは非情なものだ。
今こんなに苦しくても、きっと数日後には、この痛みは心の片隅で燻るようになる。

君を失ってしまった苦しさも。
何もできなかった悔しさも。
ぶり返した心の片隅の痛みを。

君は心の片隅で、私をずっと責めるだろう。
私はそれでも生き抜くために、君を心の片隅に追いやって、君みたいな君以外の誰かを救おうとするのだろう。

君を助けてあげたかった。
でも私は生きるよ。
君もきっと生き続ける。
私の心の片隅で。

12/17/2025, 10:44:24 PM

雪が重たいのは、周りの音を吸い込み溜め込んでいるからかもしれない。
雪をシャベルに掬っては、放り投げながら、そんなことを考える。

ふわふわと砂糖菓子のように真っ白な雪が、辺り一面を覆っている。
裸の木々の枝が複雑に絡み合い、その上にアイシングのように雪が覆い被さっている。
雪の静寂が、山奥の私とあなたを包んでいる。

防寒具の下に汗が滲んでいる。
熱った首筋とマフラーの内側の隙間を、一筋の汗粒が伝っていくのがくすぐったい。
朝出たときはあんなに寒かったのに、雪かきとは、こうも重労働なのだ。

しかし、ここで作業を辞めてしまうわけにはいかなかった。
幸い、この辺りは人通りもなく、見た目だけが柔らかくて優しそうな、冷たい雪の静寂ばかりが木々を包んでいる。
まだ時間はありそうだった。しかし、のんびりはしていられない。

分厚い手袋に覆われた腕で、額の汗を拭う。
シャベルを持ち直し、雪の静寂の下に差し込み、腕に力を込めて雪を持ち上げる。

大丈夫。
綺麗に箱に分けたのだから、あなたに気づく人はきっといない。
パッと見れば他人からは、欲張りで無邪気な子どもが宝物を木の根っこに埋めようとしているようにしか見えないだろう。

二十歳を過ぎた私は、持病のおかげで、子どもほどの背丈しかなかったし、あんなに大柄だったあなたは、もう数個の小さな箱くらいの大きさでしかないのだから。

雪をたたえた木々を見上げる。
この辺りは、春は山桜が美しいらしい。
叶うことなら、あなたとお花見で来たかったようにも思う。
でも、ここで眠れるのなら、あなたにとって幸せなことだと、私は思う。

あなただって分かってくれるはずだ。

雪の静寂が私たちを包んでいる。
私はシャベルを持ち直し、静寂を守っている雪を掘り進める。
雪の静寂が私たちを見つめている。

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