薄墨

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弱くて柔らかいところを心の片隅に追いやって、強くあろうとする君を、変えたかっただけなんだ。
君の心の片隅にある、確かに温かい、君を救いたかっただけなんだ。

そう言ったって、君にはもう分かってもらえないと思うけど。

それは私のエゴだったかも知れないけど。

君はよく、私のところに話に来てくれていた。
私と面談して、君は悩みや苦しみを少しずつ打ち明けていてくれた。
けれど、いつも最後には(しまった!)というような顔をして、慌てて笑顔を取り繕うのだ。

私は君を助けたかった。
私は、どうにかこうにか生き抜いて大人になった。
だから、君にもどうにかこうにか生き抜いて、大人になって欲しかった。

今の真っ暗な現実が、この世の全てだと思ってほしくなかった。

私は君を変えられると思っていたのだ。
傲慢な大人だった。

連絡があって、真夜中に駆けつけた時には、もう手遅れだった。
君は自らの手で、生き抜くのを辞めてしまった。

私は、私はどうしたら良かったのだろうか。

君の心の片隅で、何があったのか私は知らない。
私は君の心の全容を知ることができなかったから。
私は私の心の片隅で未だ燻っている、君と同じような気持ちをしっかり伝えられなかったから。

人間の健全な防衛本能とは非情なものだ。
今こんなに苦しくても、きっと数日後には、この痛みは心の片隅で燻るようになる。

君を失ってしまった苦しさも。
何もできなかった悔しさも。
ぶり返した心の片隅の痛みを。

君は心の片隅で、私をずっと責めるだろう。
私はそれでも生き抜くために、君を心の片隅に追いやって、君みたいな君以外の誰かを救おうとするのだろう。

君を助けてあげたかった。
でも私は生きるよ。
君もきっと生き続ける。
私の心の片隅で。

12/18/2025, 10:53:54 PM