薄墨

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雪が重たいのは、周りの音を吸い込み溜め込んでいるからかもしれない。
雪をシャベルに掬っては、放り投げながら、そんなことを考える。

ふわふわと砂糖菓子のように真っ白な雪が、辺り一面を覆っている。
裸の木々の枝が複雑に絡み合い、その上にアイシングのように雪が覆い被さっている。
雪の静寂が、山奥の私とあなたを包んでいる。

防寒具の下に汗が滲んでいる。
熱った首筋とマフラーの内側の隙間を、一筋の汗粒が伝っていくのがくすぐったい。
朝出たときはあんなに寒かったのに、雪かきとは、こうも重労働なのだ。

しかし、ここで作業を辞めてしまうわけにはいかなかった。
幸い、この辺りは人通りもなく、見た目だけが柔らかくて優しそうな、冷たい雪の静寂ばかりが木々を包んでいる。
まだ時間はありそうだった。しかし、のんびりはしていられない。

分厚い手袋に覆われた腕で、額の汗を拭う。
シャベルを持ち直し、雪の静寂の下に差し込み、腕に力を込めて雪を持ち上げる。

大丈夫。
綺麗に箱に分けたのだから、あなたに気づく人はきっといない。
パッと見れば他人からは、欲張りで無邪気な子どもが宝物を木の根っこに埋めようとしているようにしか見えないだろう。

二十歳を過ぎた私は、持病のおかげで、子どもほどの背丈しかなかったし、あんなに大柄だったあなたは、もう数個の小さな箱くらいの大きさでしかないのだから。

雪をたたえた木々を見上げる。
この辺りは、春は山桜が美しいらしい。
叶うことなら、あなたとお花見で来たかったようにも思う。
でも、ここで眠れるのなら、あなたにとって幸せなことだと、私は思う。

あなただって分かってくれるはずだ。

雪の静寂が私たちを包んでいる。
私はシャベルを持ち直し、静寂を守っている雪を掘り進める。
雪の静寂が私たちを見つめている。

12/17/2025, 10:44:24 PM