足音が、
近づいてくる
足音が、
ゆっくり、
ゆっくり、
確実に。
遠い暗闇の中から、
ゆっくり、
ゆっくり、
一歩、
一歩、
確実に。
近づいてくる…
近づいてくる!
ひた
ひた
ひた
ひた
かつ
かつ
かつ
かつ
私の足音
じゃない足音
近づいてくる
遠い暗闇の中から
ゆっくり、
ゆっくり、
一歩、
一歩、
確実に
焦げるような日差しが、地面を焼いている。
ずっと先に誰かいる。
道はまっすぐ続いている。
足を踏み入れたくなるほど、丁寧に整備された鮮やかな道だった。
太陽の下で枝を伸ばしている木々の末端に茂る葉が、意味もなくざわめいている。
蝉の、うるさいくらいかしましい大合唱が、誘うように響きわたる。
一歩を踏み出したくなる心根を、じっとこらえる。
この夏の中に踏み出すことこそ、まだ正体すら分からない奴らの思う壺なのだ。
いくら、数年前に消えてしまった夏という季節が恋しくとも、目の前の、額縁の向こうに広がる、あの夏には、足を踏み入れてはいけない。
入ったら最期、終わらない夏に囚われ続けるのだから。
私の役目は、感情のまま、この終わらない夏に囚われることではない。
私の役目は、冷静に論理的に、この終わらない夏を研究し、管理することなのだから。
焦げるような日差しが、地面を焼いている。
ずっと先に、黒い人影が立っている。
道はまっすぐ続いている。
蝉が、誘うように鳴きわめいている。
片道の 燃料乗せて 朝焼けを
遠くの空へ 遠くの空へ
仰ぎ見て けぶり揺れる ひとり寝屋
気持ちだけ今 遠くの空へ
茄子の脚 ふんばり立ちゆる 縁側で
遠くの空へ そっと手を振る
「大空に!!」 焦がれた気持ちは 激しくて
!マークじゃ 足りない感情
鮮やかな色が、視界を汚染している。
空は青くて、木々は茶色で、葉っぱは緑で。
子どもがクレヨンで描いた絵のようなべったりした原色の色彩が、私の視界を汚染している。
君が見た景色もこういうものであったのだ、ということが、私には今、初めて分かった。
君が、「見える色が変」と言い出したのは、半年前のことだった。
色が絵画のようになってしまった、なんて。
それがまさか本当に起こる現象だなんて、信じられなかった。
君はいつも悩んでいた。
他の人とは違う色彩が見えることを。
誰にも自分の視界に起きていることを信じてもらえないことを。
そして、この色彩が他の誰かに移ってしまうに違いないということを。
そうして、ある夏の日、君はいなくなった。
私の前から姿を消し、君を知っていた人々の前からもまた、姿を消した。
君がいなくなってから、私の視界も、あの色彩に汚されるようになった。
君がいなくなってから初めて、私は、君が見た景色を、初めて理解したのだった。
空は、クレヨンのように真っ青で、木々はべったりとした茶色に塗りたくられている。
クレヨンで描いたようなべったりした色彩が、私の視界を汚している。