薄墨

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焦げるような日差しが、地面を焼いている。
ずっと先に誰かいる。
道はまっすぐ続いている。

足を踏み入れたくなるほど、丁寧に整備された鮮やかな道だった。
太陽の下で枝を伸ばしている木々の末端に茂る葉が、意味もなくざわめいている。
蝉の、うるさいくらいかしましい大合唱が、誘うように響きわたる。

一歩を踏み出したくなる心根を、じっとこらえる。
この夏の中に踏み出すことこそ、まだ正体すら分からない奴らの思う壺なのだ。

いくら、数年前に消えてしまった夏という季節が恋しくとも、目の前の、額縁の向こうに広がる、あの夏には、足を踏み入れてはいけない。

入ったら最期、終わらない夏に囚われ続けるのだから。

私の役目は、感情のまま、この終わらない夏に囚われることではない。
私の役目は、冷静に論理的に、この終わらない夏を研究し、管理することなのだから。

焦げるような日差しが、地面を焼いている。
ずっと先に、黒い人影が立っている。
道はまっすぐ続いている。

蝉が、誘うように鳴きわめいている。

8/17/2025, 2:45:17 PM