お題:眠れないほど
眠れないほどに楽しみな明日が実在するとは。
心臓が熱を打ちだす。
手足がゴソゴソ動いてしまう。
まぶたを下ろそうにも力が入る。
冷たくて眠れない夜があなたのたった一言で180度変わってしまうのだから、不思議なものだ。
知らぬ間にゆるんでいた口元がおかしくて、心までたゆんだ。
布団を押しのけて電気をつける。
スマホで明日の天気をチェックしながら、クローゼットを開いた。
お題:夢と現実
闇に体を預け、ふわふわと漂っていた。
空間に一切の温みはないのに、底冷えする気配はない。
ここはどこだろう?
空から光が差しこむ。
まるで白い槍が降っているかのように暴力的だった。
槍の雨に飲みこまれ、自然とまぶたが開く。
私は白い部屋にいた。
ざわめきだす聞き慣れた声。
つんとしたアルコールの匂い。
ああ、私は帰ってきてしまったんだね。
お題:さよならは言わないで
「さよならは言わないでおくよ」
あなたがまたね代わりの挨拶を残してから、どれほどの時が流れたでしょう。
触れたら溶けてしまう雪の粒のように淡い祈りを込めた言葉は今もまだ私の胸に灯っているというのに。
冴えた夜空には静謐の星々。
死んだ人は星になるだなんて、誰が言ったのでしょうね。
あなたと星を数えた喜びよりも、あなたを探してしまう無意識の悲しさが身にしみてしまうのだから、なんて意地の悪い言葉でしょう。
物言わぬ星を仰ぎ見て、あなたの声を思い出す。
何度も、何度も。
いつかまた会えたら、このやさしい痛みを渡しましょう。
これは私があなたを思った証なのですから。
お題:泣かないで
「ちょっと、すぐ泣かないでよ」
何度言われたかわからない。
どうしてもあふれてしまうのだ。
言葉よりも先に涙がこぼれて、我慢しようと思ってもできなくて。
悔しい。
そんなのおかしいよ、違うよ。
ちゃんと伝えたいのに、心が先走って伝えられない。
今だってそうだ。
せっかく相談に乗ってくれているというのに。
わたしは泣いてばかりで何も話せていない。
きっとまた、同じことを言われてしまうだろう。
おずおずと顔を上げる。
あなたは静かにわたしを見つめていた。
ゆっくりと、唇が動きだす。
この瞬間だけスローモーションのようだった。
「もういいの?」
涙がキュッとひっこむ。
予想外で脳が上手く処理できない。
わたしに構わず言葉が続く。
「泣きたいときは泣けばいい。ただ相手を間違えると、弱い人だと思われて損だよ。別に弱いから泣くわけじゃないからね。
ここではいくらでも泣いていい。だからそのぶん、よそでは泣かないでよ?」
あたたかな雫が頬を伝った。