お題:泣かないで
「ちょっと、すぐ泣かないでよ」
何度言われたかわからない。
どうしてもあふれてしまうのだ。
言葉よりも先に涙がこぼれて、我慢しようと思ってもできなくて。
悔しい。
そんなのおかしいよ、違うよ。
ちゃんと伝えたいのに、心が先走って伝えられない。
今だってそうだ。
せっかく相談に乗ってくれているというのに。
わたしは泣いてばかりで何も話せていない。
きっとまた、同じことを言われてしまうだろう。
おずおずと顔を上げる。
あなたは静かにわたしを見つめていた。
ゆっくりと、唇が動きだす。
この瞬間だけスローモーションのようだった。
「もういいの?」
涙がキュッとひっこむ。
予想外で脳が上手く処理できない。
わたしに構わず言葉が続く。
「泣きたいときは泣けばいい。ただ相手を間違えると、弱い人だと思われて損だよ。別に弱いから泣くわけじゃないからね。
ここではいくらでも泣いていい。だからそのぶん、よそでは泣かないでよ?」
あたたかな雫が頬を伝った。
12/1/2023, 8:52:30 AM