真っ暗な闇の中で私は夢を見た。君が救ってくれる夢。それは私にとって一筋の光みたいでー。とっても眩しかった。けれど、手を伸ばしても君には届かない。当然、届くはずもない。そんなこと誰よりわかっているのに淡い期待を抱いてしまう。いっそのこともうこのまま堕ちてしまおうか。深く、深くもっと深いところまで堕ちて誰にも見つからないままひっそりと死んでしまおうか。そんなことさえ思った。
それでも手を伸ばし続けた。そして彼が一瞬こちらを見たのだ。もっと彼を見たい。そう思う少女の気持ちとは裏腹に体はどんどん沈んでいく。「時間切れだよ」しわがれた声が脳に響く。ああ、そっか。ここまでなんだ。少女は悲しげに自分から沈んでいった。
これはとある人魚の話。彼女は誰にも愛されることなく、静かに沈んでいった。
たった一つの光さえ見つけられないまま。
zene
今日もあなたはいない。この世界のどこを探してもあなたはいない。ついこの間まで一緒にいたのに。私はうつろな瞳で窓の外を見た。そこには私の心を慰めるかのように鮮やかな紅葉が広がっていた。当然、そんなものでは癒されるはずなどないのだけれど。私はあなたの手首を強く抱きしめた。今日こそ埋葬しなきゃなとうっすら思いつつ、死体に近寄る。そして、おそらく最後の接吻を交わした。かつて自分が殺した恋人に。
zene
私は鏡が嫌いだ。なぜなら現実を突きつけられるから。いくらSNSで輪郭を形どっても、自分は変わらない。私は鏡を見るのがとても怖い。そして何よりも辛いのだ。私は鏡を思いっきり床に投げつけた。割れた鏡の破片が顔に突き刺さる。ああ、良かった。これで私は鏡を見ずにいられる。これからは自由なんだ。容姿に囚われることなく、生きていける。これでよかったんだ。私は苦痛に顔を歪めながら最後の自撮りを撮った。
zene
眠ってしまう前に私はあなたのことを思い出す。きっとこの眠りについてしまえば、私は二度と目覚めることは無いと思うから。だから今のうちにしっかり胸に焼き付けておく。忘れてしまわないように。夢の中でも会えるように。
何度かそう唱えたあと、ふぅと息を吐く。よし、心の準備は出来た。そうやって私は覚悟を決め、ゆっくりと目を瞑った。
覚めることなどない、永遠の眠りに。
zene
よく、「永遠の愛」とか、「永遠の命」とか言うけど、そんなものないよ。
だって人はいつか必ず死ぬんだから。
あのね、永遠っていうのは現実を受け入れられない人達が見るおとぎ話なの。
そんなもの望んだってどうにもならない。
悲しいけど、それが現実ってもん。
私、知っちゃったんだ。永遠なんてないんだって。
これは永遠を夢みた少女の話。
本当は誰よりも永遠を望んだ哀れな少女の話。
zene