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5/18/2023, 1:57:14 PM

※ポケモン剣盾二次創作・マクワさんとセキタンザン

黒の中は呼吸がしやすくて、不思議なほど居心地が良かった。
全ての予定も訓練も終えてから拝借したジムの社用車を転がして(当然ガソリンやメンテナンス代は自腹で支払うつもりだ)、しばらく進んだ先の真っ暗な道を進んだ。窓を全て閉めていてもキルクスの街の中とは全く違う香りと雰囲気が、車中を包み込むこの感覚がお気に入りだった。
数メートル先でさえ、車のライトが無ければなにもわからないだろう。時折がさがさと触れてくる木の枝や、踏み越える石たちのごろごろした感触。
路に根を伸ばした雑草や砂を巻き上げた時の雑多な香りは、人里から離れた証拠のようで妙に気持ちを昂らせていた。車一台がようやく通れるような細い道を進んでいき、少しだけ開けた部分に軽自動車を停めた。
片手に懐中電灯を持ち、それからモンスターボールを取り出して投げた。
ぱちぱちと火の粉が弾ける音と、紅い輝きが暗い夜道の中で瞳孔を燃やしていく。周囲の温度がふわりと温かくなって、半分眠そうな顔をしたセキタンザンが姿を現した。
そういえば今日のこの行軍はあまりにも突発的だったので、相棒にすら何も言っていなかった。

「この先に行きたいところがあるのです。付いてきてくれませんか」
「シュポオ」

当然のように石炭のバディは頸を傾げていた。それもそうだろう、こんな真っ暗間な森の中は、通常であれば危険地帯になる。いつポケモンが出てくるかもわからないし、何より道を迷って遭難する危険さえあった。それはぼく自身も良く知っていて、バディにも口酸っぱくして言っていることだ。

「……ちょっとした訓練です。きちんと目印は付けていきますから大丈夫」

そうしてぼくは反射加工のされた紐の入った透明な袋を鞄から出して見せた。懐中電灯を当てるとちかちか光って眼に痛いくらいだった。
早速車のミラーに取り付けて光を当てて見れば、暗闇の中でもはっきりと居場所を主張するようになった。

「それにきみの輝きもありますからね」
「ボオ」

セキタンザンはよくわかっておらず、しかしバディたるぼくに頼られていると理解してくれたのだろうか。少しだけぼくに近づいた。

「この細い道を辿っていけば行き先が出てきます。行きましょう」

照明をあてた先に、小さな看板があり矢印が書かれていた。その先の細い道はひとの手が加わって小さな階段が作られていた。ぼくが歩きだせば、セキタンザンは慌てて前に出てくれた。
光が必要だと悟ってくれたのだろう。本当に賢い相棒だった。

「ありがとう、道はぼくが案内します」

風が吹き、夜行性のポケモンがわななく声が聞こえてきた。むしポケモンや、ゴーストポケモンもいるだろう。セキタンザンは周囲を見回しながらゆっくりと前を歩いていく。ぱきぱきと枝を踏み抜く音が小気味良い。
今日は新月で夜空の灯りが少なく昏いはずなのに、星の姿もほとんど見えなかった。ふわりと開く木の枝の影との境界はない。まるで全てが影のようだ。ぼくは大きく息を吸い込んだ。
今日の昼間、控室でじっと考えていたことを思い出す。結果は芳しくなかった。
それは全てポケモン達のせいではない、ぼくが彼らを上手く導けなかったせいで、砕かせたのはぼくだった。

「シュポォー?」

賑やかで、でも確かに閑静な森の中をセキタンザンの呼び声が響いた。
少しセキタンザンと距離が空いてしまったことを気にして、後ろを振り向いて待っていてくれた。

「ああ、すみません。……ちょっと足場が悪くて」
「シュポォ……」

彼の尖った瞳がぼくをじっと訝しむように見つめた。

「大丈夫。行きましょう、それほどかからないはずです……ああ、ありがとう」

ぼくは近くの木の枝に灯りをあてながら、手を伸ばし、反射紐を括りつける。両手が塞がってしまう分、セキタンザンがぼくが両足の間に挟んで手元を照らしていた懐中電灯を拾い上げて、持ってくれた。気の利く相棒だった。

「……真夜中はいいですね」
「ボオ」
「なんでもありません」

それから何も言う事はなく、十分程だろうか。最初は小さかった水の音がどんどん近づいてきて、湿気の香りが匂い建つようになった。近くに川があるようだ。光を照らしてみても見つからないので、おそらくはあまり大きくはないものだろう。
十分注意をしながら数回紐を括りつけながら歩いていくと、入り口にあった木材で舗装された階段が再びぼくらの前に姿を現した。それを登っていくと、その先にはバラバラになった大きな石があった。
その石屑たちは、よくよく見ると建物の基盤として作られたもので、奥の方にはまだ壁としてなんとか形を残し、窓として切り抜かれたらしき穴も残っていた。
もっとも穴の間には硝子も何もなくなっており、長く伸びた蔦や苔がぐるぐると取り巻いて、今は自分の居場所だと言っている。ここはれっきとした廃墟の跡だった。

「シュポォ」
「はい、ここが……今日ぼくたちが来たかった場所です。野生のポケモンは居なさそうですね、よかった。大昔の……偉い人が立てた家の跡だそうです。風化してもなお残るいわの土台……すばらしいですね」
「ボ~」
「でも真っ暗だ」

ぼくはうっすら笑うと、懐中電灯の光を当てて、割れて削れた岩のひとつに手を伸ばす。しっかりと埋まったまま動く気配はない。とても立派なものだ。
その時、ぼくの手元の懐中電灯の光がちかちかと瞬きを始めた。そしてあっという間に灯りは力を失って、辺りを黒が塗りつぶした。
何度か電源スイッチを押してみたが、びくともしない。ポケットを叩くが、紐以外の重たいものもなかった。鞄の中にも見当たらない。予備の電池は車の中だった。

「シュポォ!」

セキタンザンが、がさがさと音を立てて何かを拾い上げると、その場でふうと炎を吐いた。赤い光が拾った枝で作った即席の松明を照らしていた。
それをぼくに向けて差し出した。あまりにも明るい輝きだ。

「眩しい……。ありがとうございます」

セキタンザンの背中の赤炎が、石炭の岩と岩の間を走って瞬いている。まるで地上の星座のようだ。ぼくはその松明を受け取ると、セキタンザンをまじまじと見つめた。
いつも見ている橙の輝きは、今唯一地上を彩っているものだ。柔らかくて逞しいいのちの灯火。
時折空気を揺るがして、その熱が世界の中へと溶け込んでゆく。

「星のない夜が……好きです。きみの姿が一番映えるから 」
「シュポォー」

ぼくは片手に松明を持ち、その石柱に腰かけた。めらめらと燃えるセキタンザンの一部は、ぼくの頬を照らして温め続ける。
ぱちぱちと火の粉が弾ける音に混ざって、遠くで川のせせらぎの音が聞こえてきた。

「……あーあ、スタジアムの光が全部きみの放つ光だったらいいのに」
「ボオ」
「そうすればいい……? そうですね、ぼくときみなら出来る……。あんなの吹き飛ばすくらい造作もない……でも今日は出来ませんでした。あれだけ訓練しているのに……ぼくは……」

風が吹く。掲げる左手の中の炎が揺らめいて、小さくなる。ここにはスタジアムを照らすスポットライトも何もなかった。

「……もういっそこの黒の中に溶けてしまいたい……。……きみと同じ色になるには……どうしたらいいかな」
「シュポォー」

セキタンザン座が時折小さな赤い星を生み出しながら、ぼくの方へと近づいてくる。真っ赤に燃ゆる星の輝きは確かな温度を持ってぼくを照らし出す。
今のぼくはきっと真っ赤に染まっているに違いない。それはぼくのもともと持っている色素のせいだ。いや、そもそもぼくたちが視認している色は光が放つもので。

「……そうですよね。どこまで行っても結局ぼくはぼくで……。ぼくはぼくだからきみと……同じ夢を分かち合える」
「シュ ポォー!」
「ぼくが独り占めしては……いけませんね。皆さんにこの輝きを知らしめたいのはぼくですから」

セキタンザンは何も言わず、その黒い瞳で弧を描く。

「折角ですからここでキャンプして一晩過ごしていきましょう。たまには……付き合ってくれるでしょう? きみと朝日を見たいから」

ぼくは荷物からキャンプセットを取り出した。しっかり野生のポケモン避けだけはしておく。
温かい闇の中で眠りたかった。
何も見えなかったはずの夜空には、木の枝たちが伸ばす腕の中で、ぽつぽつと細やかな星々が瞬き始めている。

5/12/2023, 5:21:38 PM

※ポケモン剣盾二次創作・マクワとセキタンザン

俺のこころの玩具箱の中に、しまってある景色があった。

くちゅん。狭い洞窟に、ひとの発した息の音が響き渡って、白い息が煙となって立ち昇った。
緩い青色の光が零れる外の景色は、はらはらと雪が降りはじめており、辺りは急に温度を失い始めていた。
幼いマクワは分厚いハンカチを取り出して、顔を拭う。

「……今日は一緒に外へ行こうと思ってました。……でもこの天気では危険だから……やめておきましょう。ぼくも勉強のつづきをすることにします」

ため息交じりの言葉は、その優しい色をしたタオルハンカチに半分ほど吸われていた。
ああいうもこもこした素材はタオルというものらしい。
マクワはよく母親の話をする。彼女から譲られたものかもしれないと、なんとなしに思った。
俺は車輪を動かして、マクワに近寄った。少しだけ頭を傾けると、しっかりしたズボンの布地に触れた。身体の奥の方に力を入れてやると、ほんのりと湯気が上がった。
丸くて青い、澄んだ硝子のような目がぱちぱちと瞬きしながら俺を見下ろす。それからその場にしゃがみ込むと、俺の上に手を乗せた。

「……温かい」

ほんの少しだけ和らいだ表情を、もう少しだけ、発熱する力に変えてみせたのだった。



ぱち、と音が響き、それから少しの時間差で蛍光灯の光が瞬いた。年季の入った電灯は、しばらくその灯りを揺らがせながら、埃の被った棚や機材を照らし出した。
俺にはよくわからないが、よく人間が家の中に入れているはずのものだ。しかししばらく使われていないことは、積もったものの分厚さでよくよくわかった。
マクワは持ち上げた髪を震わせながら小さく咳き込んでいた。

「……当たり前ですが埃が凄いですね、この倉庫の中……。早く用事を済ませてしまいますね」
「シュポー」

殆ど隙間みたいな家具と家具の間をマクワは歩いていく。ここはキルクスにある、メロンさんの家の庭に建てられた物置小屋の中だった。
マクワが半分飛び出すようにしてこの家を出て来てしまった矢先、いくつか忘れ物があるのだという。
メロンさんが仕事で顔を合わせない内に、探したいものが何やらあるらしい。
マクワは俺が通れるように道を作りながら隅まで進むと、天井まで積まれたプラスチックの箱の前に立った。

「セキタンザン、申し訳ないですがぼくの足場になってくれませんか」
「ボオ!」

俺はすぐに両手を差し出した。その為に呼ばれたのかと思うとちょっとだけつまらないような気もしたが、それよりもマクワの探し物の方が気になった。
彼は礼を告げると俺の両腕に足を掛け、両足で立つ。俺はゆっくりとマクワを持ち上げて、その高い箱に手が届く様にしてやった。

「……ああ、この一番上の箱です、間違いありません」

マクワがプラスチックボックスを両手で抱えるのを確認すると、再び彼を床の上に降ろしてやる。分厚くて大きな埃がぱらぱらと舞っていた。
箱を近くの棚の上に降ろし、白い手が両脇の留め具を外し、中を開いた。そこにはたっぷりの紙を挟み込んだ冊子がぎっちり詰まっていた。かつて使っていた勉強の道具だろうか。
マクワは更にその本の山を取り出して箱の横に並べていく。

「……あった。ジムリーダーになった今……改めて読みたいと思っていたのです。母が書いて発行した本をぼくにくれたものと……リーグの記録本です」

しっかりした表紙が美しい本と、もう一つはずいぶんと太くて大きな本だった。

「それと……これ」

本たちの山の奥に、ひっそりと隠れていたのは、ヨクバリスが描かれた小さな玩具の缶のケースだった。見た目よりも重たそうで、しかし時折中の物がぶつかるのか、小気味のいい音が聞こえてくる。
マクワが爪を引っかけて力を入れると、擦れるような音を立てて開いた。土のような香りが漂う。缶を傾けると、中に入っているのはたくさんの石だった。
全て黒だったり、昏くて重たい色をしたものばかりだ。

「……きみが喜びそうだと思って拾ったのですが、よく調べてみたらあまり使われない成分のものばかりで……でも捨てるに捨てられずにぼくのコレクションになってしまった石ころたちです」
「シュポォ」
「……どうですか、ぼくにも一応……ずっといわタイプでありたい気持ちがあったのですよ」

それは俺が誰より身をもって知っていると思っている。他のポケモンを育てている癖に、俺をボールの中に入れたのはマクワだった。

「幼い子供の……密かな抵抗でしょうか。……でももうこれは不要になりましたので、捨ててしまおうかと」

マクワは再び缶に蓋を付けた。そして目当てのもの以外を全て箱の中に仕舞うと、同じように元の位置に戻してしまった。もちろん手伝ったのは俺だった。
荷物を抱えて倉庫の外に出ると、ガラガラとシャッターを下ろした。
キルクスの柔らかい陽射しが降りてきて、マクワはサングラスを付け、光を反射させた。ちかちかした明かりが直接目に入って、思わず瞬きをした。

「子供のままだったら……きみとはこうして一緒に居られなかったでしょうね。ひょっとしたらタンドンのままだったかも……」
「シュポオー」
「……ぼくはずっと大人になりました」

サングラスを抑えて、マクワは家の裏へと歩いていく。そして敷地から出ると、林の中に入り、砂利の多い場所に立った。そして缶の中の石をばらばらと撒いてしまった。
一か所に固まらないようにという配慮なのか、ひとの白い足で散らしてゆく。

「……シュポォ」
「これでよし。……それではこのまま退散しましょう、いつ帰って来るかわからな……くちゅん!」

マクワが盛大にくしゃみをした。埃っぽい所にいたせいなのか、それとも。

「……なんですかその眼」
「シュ ポォー!」

俺は笑って鳴き声を上げた。俺のこころの箱の中から取り出したのはあの洞窟で見せた、くしゃみの仕方だけではない。
何かあると母親を避けてしまう所も、ずっとずっと変わっていない。
俺だけが知っている、バディの変わらない姿だ。気が付けば、もうあの捨てた石たちに対する気持ちは遠ざかっていた。
俺のバディはたくさん戦う術を身に着けて、誰より早く大人になってしまった。なろうとした。だけれど、だからこそ。まだ子供のままであり続けているもの。
俺のこころの玩具箱の中に、そうっとしまい込んでいく。

5/11/2023, 5:49:54 PM

※ポケモン剣盾二次創作・マクワとセキタンザン/ダンデとリザードン


追い詰める。とうとう、ようやくここまで来た。
歓声でスタジアムが震える。客席のライトが波を打つ。
芝を燃やした焦げた香りと砂の重たい土の香り、そして石炭が生み出す蒸気の香りが、羽ばたきのに乗って舞い上がり渦を巻く。
風を裂いて、オレンジ色の龍の顔がマクワのサングラスに映る自分の姿を見下ろす。幾度も王座を守り抜いてきたチャンピオンそのもの。無敗のダンデのバディだった。
お互いのダイマックスバンドはもうエネルギーを使い果たしていた。
チャンピオンのポケモンはもう残りリザードンしか戦えない。そのリザードンも度重なる技の応酬の中で疲弊し、体力を削られているのが目に見えていた。
必死で涼しい顔をしているが、羽ばたきのペースが落ちている。風に揺れる芝の囁きが弱い。
なら今は。

「ストーンエッジ!!」

バディの声を聴いたセキタンザンが紅い目で即座に怜悧な岩片を生み出し、空飛ぶリザードンに向けて投げつけた。
セキタンザンもこの長い闘いの中で、だいぶくたびれ始めていた。

「お返しだぜ、げんしのちから!」

ダンデのマントが風を帯びて翻る。
先ほどまでの緩い流風が嘘のように重たさを持ってリザードンの身体を押し飛ばす。セキタンザンが投げた幾つもの石剣を躱して大きく吠える。周りにいわのちからが輪を描いて集まる。

「セキタンザン、タールショット!」

周囲を包む蒸気の白い煙が一層強まる。石炭の巨躯が芝の上を走り抜ける。だが特殊なちからを帯びたリザードンのいわはセキタンザンの身体を捕捉した。
石炭の山は黒い油をリザードンに向けて吐き出した。王者の腹に付着した重たい油は、いっそうリザードンの羽の動きを束縛する。

「ストーンエッジ!」
「だいもんじ!」

大火と巨岩がスタジアムの中央でぶつかり合う。破裂するような音が響き、激しい強風がスタジアムを襲った。
タールショットの油はどんな相手でも引火させてしまう強力なものだ。まさかそれを自分の身体に残したまま、ほのお技を使うなんて、マクワの予想外だった。
上がった土煙にお互いの姿が喰われていく。中央は視界の効かない煙の中に包まれた。
だからといってここで攻撃の手を緩めてしまったら、再び相手のペースに巻き込まれる。
マクワは煙の中に弾ける橙色の炎を見た。

「フレアドライブ! 2時方向です!」
「ゴオ!!」
「今だ、げんしのちから!」
「まさか……」

今、ほのおを上げて飛び上がったセキタンザンの懐に、光のいわが飛び込んだ。横からの衝撃を受けた彼は、浮力を失って弾き飛ばされる。

「セキタンザン!」
「もう一発、げんしのちからだ!」

煙の中から姿を現したリザードンは、再びいわの力を、石炭のポケモンに叩き込む。立ち上がろうとしたセキタンザンは再び芝の中に転がった。
空から見下ろすリザードンの眼が光を帯びている。げんしのちからの効果はセキタンザンに向いていただけではなく、リザードンにも及ぼして、彼の持つ力をより覚醒させていた。
より強い力を直に受けたセキタンザンは、倒れたまま起き上がらない。マクワは歯噛みした。
ほのおの力の強いセキタンザンにとって、相手のいわの力は脅威だ。トレーナーが何より理解している。これ以上戦わせれば命の危険さえある。審判ロトムが降りてきた。思わずモンスターボールに手が伸びる。だが、今は。

「……ゴォ……!」

セキタンザンは顔を上げると、紅い瞳で真っ直ぐにリザードンを睨んでいる。そして体を起こし、一気に自分の背中の火炎を上げた。
マクワはサングラスを抑え、冷たい意思の瞳ダンデを強く睨む。
ああ、諦めてたまるか。ぼくは信じる。それがぼくに出来る、ぼくの咆哮だ。
ぼくたちが、セキタンザンがどれほどの訓練を費やしてきたか、傷みを超えてきたか。
ぼくは知っている。ぼくだけが知っている。ここまで来たんだ。ぼくらは負けない。負けられない。
いわの輝きの絶対を焼き付ける。

「ええ、きみは誰にも砕けない……。砕かせない。ぼくらの冠を……頂こうッ! セキタンザン!!」

ぼくが愛を叫べば、相棒も応える。

「シュポォオオ!」
「ストーンエッジ!!」

マクワが技の名前を叫び終えると同時に、セキタンザンの前に岩槍が迸る。それは波を打つようにしてリザードンへ向かう。飛翔して避けようとした彼の前で岩片は割れ、その中から更に太い岩の剣が伸びる。岩の流れは炎竜の翼の付け根を貫き、彼を地に撃ち落とした。

4/30/2023, 9:06:05 AM

※ポケモン剣盾二次創作・マクワとセキタンザン

ぱちん、ぱち。
赤の破片が舞ってすぐに消えてゆく。頬に触れる仄かな暖かさがじんわりと滲んで染み込むようだった。懐かしい木材に似た香りが燻って、鼻腔を焦がしてゆく。
次々と踊る真っ赤な粉は、その姿を見せたかと思うと、瞬きをしている間に闇夜の中へと溶けていった。
ぱち、ぱぱぱ。
耳に届くのは軽快な彩りの音だった。弾けてはすぐ聞こえなくなる、ほんのミクロが爆発する声は、耳をすまさなければ木の枝と枝が触れ合う音にかき消されてしまいそうだった。
ふう、と空気の流れに押されたたくさんの手と手は、ぐるりとその場で激しく踊り、飛び散るように光を失って落ちてゆく。
流麗なあわいの火の粉の舞と、麓の石炭の山の輝きがふわっと強まったかと思えば、吸い込まれるようにして落ち着いた色に変わってゆく。
ぼんやりと瞼を開いたマクワの目に映る、温かいひかりだった。いつの間にか座ったままうたた寝をしていて、そうして目を覚ました。暗闇の中のキャンプのテントも、光に照らされて鮮やかなブルーを示していた。
片手に持ったままの、さっき相棒に持ってもらったモーモーミルクのマグカップはすでに人肌の方が温度がある。
マクワはそれを一気に飲み干して、自分の折りたたみ椅子に付いていたテーブルにのせた。それからまだぐうぐうと眠ったままの相棒に寄せて、座ったまま椅子を抱えると、頬を温める熱はさらに強まった。
ぱ、ぱぱ、ぱちん。ぱちん。
新鮮な酸素を食べた炎が、喜びの声をあげて火の粉を舞い上げる。すぐに真っ白の灰になり、夜空の中へと滲んでゆく。
優しく猛々しいバディのいのちが今マクワの隣にあって、絶えず煌めき続けている証左だった。
どこまでも、どこまでも飛んで行けるといい。なるべく遠くの空の下まで。
いわの輝きはひとの心も照らし出すことを、誰よりも知っていた。
けれど。
ぱちん、ぱちん、ぱちん。
どうかこの灯火が、ずっと隣にあり続けますように。ぼくが磨く、素晴らしい輝きが、たくさんの人に届けられるように。
マクワはふう、と大きく息を吹き、火の粉が揺れ踊る姿を目に焼き付けて、再び目を閉じるのだった。





4/29/2023, 12:35:41 PM

※ポケモン剣盾2次創作・マクワとセキタンザン

「ふぅ……だいぶ登ってきましたね。この岩の上からならキルクススタジアムが見えますよ。あそこです」
「シュ ポォー!」
「セキタンザンそれは……水晶? 道中で拾ったのですか」
「ボオ!」
「……ぼくはきみに見つけてもらえたから……。……その、今とても……たのしい……です。……こうしてきみと山登りすることも……トレーニングも全部……意味を持ちました。
全部……セキタンザンのものになってくれたら……ぼくは……」
「シュポ!」
「……ここ怒るところですか? ぼくはただきみの身体作りの……いや、そうですね。ぼくだってきみとの一瞬たりとも全て……誰にも譲る気はありませんから」
「ボオ!」
「こんなこと……きみをバディにしなかったら考えもしなかったと思います。きみと重なる時間、この一瞬が……さあ無駄話はやめてそろそろ行きますよ。まだ半分程度なのですから」
「シュポォ……」
「そんな声を出してもダメ……です。言ったでしょう、ぼくは絶対に妥協しません。ガラルでチャンピオンになる……それはぼくがきみにあげられる最高のプレゼントに他ならないんですから。そのために常に全力でいきますよ」
「シュ ポオー!」
「ああ、待ってください! この岩はぼくが降りますから! 全力だからといって故障は恥です!」

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