特盛りごはん

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7/26/2023, 12:04:20 PM

誰かのためになるならば、私は土を作りましょう。

誰かのためになるならば、私は種を蒔きましょう。

誰かのためになるならば、私は水をあげましょう。

そうして誰かのためにと育てた花は、その誰かの手によって容易く手折られる。
自分が望んだことなのに、自分の手元から離れた花の色を恋しく思うのは何故なのだろう。



/誰かのためになるならば

7/25/2023, 11:34:10 AM

「あのコは自由でいいな」

 籠の中の鳥はそう言って窓の外に見える景色に思いを馳せながら用意された食事を啄んだ。

「あのコは守られてていいな」

 籠の外の鳥はそう言って屋敷の中へと思いを馳せながら天敵の爪から逃れようと空へ飛び立った。



/鳥かご

7/24/2023, 12:22:56 PM

「ずっとずっと大嫌いだったよ」

 そう吐き捨てた彼女の表情は私の知るそれとはあまりにも違っていた。そんな顔が出来たのか、と驚いてしまう程に。
 戸惑う私を映す瞳に温度はなく、いつも緩やかに弧を描いていた唇は小さく噛み締められて白くなっていた。放たれた言葉に受けた衝撃よりも彼女のその表情こそが私に現実を突き立てる。
 穏やかな質の筈の彼女のこの歪みの原因が私であるというのなら。私が何年も彼女に抱いていたこの情は、一方通行な身勝手なものは、一体何だったというのだろう。
 それに答えてくれる友人は、もう居なかった。



/友情

7/23/2023, 12:28:16 PM

 花盗人に罪はないとは言うけれど。手折って自分の手元に置きたいだなんて自分勝手な感情が風流であるものか。
 通り過ぎる風に髪を柔らかに揺らし、目尻をくしゃりと崩して、まだ化粧っ気を知らない頬を薄桃色に染めて花が咲くように笑った彼女。
 可愛い、綺麗、好き。単純な言葉のその奥で自分が抱いた感情は、桜の枝を手折った盗人と同じものなのかもしれない。
 もしそうであるなら。やはり風流なんて程遠い。花盗人に罪はない、なんて訳がないのだ。



/花咲いて

7/22/2023, 1:26:08 PM

 昼下がりのテレビに映るありきたりなトークテーマで盛り上がる番組を横目に、我が家のコメンテーター二人は熱い議論を交わす。

「恐竜!ぜったいに恐竜がいい!」
「ロボットの方がいいよー!」
「だって恐竜のほうが強いよ」
「ロボットのほうがスゴいよ。だってミサイルとか……ビームとかうてるし」
「それはスゴいかも」

 過去か未来か。何処へ何をしに行くか。まだこの世に生を受けて一桁の小さな命達が想像もつかない時代に思いを馳せる姿は愛らしい。
 二人の背後で気配を殺していたが、思わず漏れた笑い声で存在を思い出したらしい。きらきらとした瞳が二対こちらを向く。

「お母さんは?」
「お母さんはなにしたい?」
「そうだなぁ」

 貴方達が産まれた日に行って、嬉し泣きする旦那をもう一度生で見るのもいいかも知れない。なんてことを言うと照れながら怒られるは分かっているので。

「忍者に会いに行きたいかな」
「忍者!?」
「めちゃくちゃいいじゃん!」

 採用!と最近覚えたばかりの言葉を高らかに宣言して忍者の話へと移っていく二人と同じように、テレビの中の話題も別のものへと移っていった。



/もしもタイムマシンがあったなら

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