また暑い夏がやってくる。
「GWだよ。夏なんてまだ先じゃない」
「いーや、だってもう暑くない?夏なんてすぐだよ!夏がきたら一年なんてあっという間に終わるんだから」
「もう年末の話?さすがに早すぎない?」
うだうだしてると青春もあっという間に過ぎちゃうんだから!と勢いよく教室を飛び出していく背中を追うように立ち上がった。もっと二人でゆっくりおしゃべりしている方が私には嬉しいんだけど。時間がもっと緩やかに過ぎていけばいいのに。早く早く!と急かす声には逆らえなかった。
「まさか、今日が何の日か覚えてないの?」
「……は?」
急な問いに脳をフル回転させるが何も思い出せない。誕生日?付き合い始めた日?一緒に暮らし始めた日?どれも違う。ヤバい、何も思い出せない。
記念日なんて全部覚えてられるわけないだろ、と頭を抱えたくなったが、きっと俺が悪い。記念日をすっぽかして怒られた前科がそれなりにある。同じことを繰り返せば怒るのも無理はない。
素直に謝ろう。一番被害を少なくするにはそれがいい。
「~~ッ悪かった!忘れました!
で、今日は何の日なんだ?」
「今日はね、私が君を好きになった日だよ!」
「そんなもんわかるか!……ん?つまりそれはいつなんだ?何年前?何のときに?」
秘密だよ、と言われてしまった以上、『記念日』だけしか残らなかった。
世界は明日終わるらしい。
それは良かった。
君を置いていくのも置いていかれるのも本意じゃない。
僕は君のワガママを叶えるために生きているといっても過言じゃないし、僕がいなくなったらきっと君は誰の手にも負えなくなるだろう。
最後まで一緒にいられるのならちょうど良かった。
ホッと胸を撫で下ろしてそう言ったら、バカじゃないの!と思い切り怒鳴りつけられた。
あれ、最後の最期でケンカはしたくないんだけど。
「やだ!あたしまだ死にたくない!ちゃっちゃとどうにかしてきてよ!ねえ!いっしょーのおねがい!!」
あーもう。
一生のお願いはこれで何度目かな。
どうせまた舌の根も乾かぬうちに同じことを言うのだろうけれども。
「……ハイハイ、プリンセス。明日の朝食の紅茶はいかがしますかな?」
闇に一筋の光が射したようだった。
それは盲た目には眩しいほどの光で、一瞬で灼き尽くされてしまった。他の何も目に入らないくらい強烈で、魅せられたが最後、その鮮やかさから視線を逸らせなくなる。
どうしても手に入れたい。
誰しもが焦がれるあの美しいひとを、私などが手に入れられるはずもないのに。頭ではわかっていても、どうしても諦められない。
美しい一番星がこの手に降ってくるのをただ黙って待つしかないのか。
いや、そんなことはできない。もし手を拱いて他の誰かのものになったりしたら、それを横で指を咥えて見ていることになったりしたら。……想像しただけで吐き気がしそうだ。
一番星を落とそう。たとえどんな手を使ってでも。
分不相応?そんなことはわかりきってる。一度手に入れてしまえば誰も気にならないさ。そう、可哀想な一番星が惨めに地上に堕とされるまでの悲しいお話。
真夜中にけたたましいバイクの音が響いていた。またいつもの国道沿いのガスステーションで溜まっているのだろう。バイクの騒音に耐えかねて、住民が凶行に及んだ事件がニュースであったばかりだが、そんな簡単に社会が何か変わるわけでもない。まあ、それはそうか、と自分で自分を納得させた。ふと背後から微かに救急車の音も聞こえてくる。バイクの少年達はちゃんと緊急車両を避けるのだろうか。それとも勢いのまま走り去るだろうか。そんなことを考えているうちにミラーに赤いパトランプがくるくる回り光るのが見えて、慌てた私は用もないのにコンビニにハンドルを切ってしまった。