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5/19/2025, 11:47:51 AM

誰だってきっと忘れられない人はいるだろう。
それが私にとっては最初の恋で、最後の恋で、誰よりも愛してやまないあなただった。
ふと遠い昔の記憶がよみがえって、乾いた咳と一緒に瞳から涙が溢れて頬を伝う。
私の人生が終わりを迎えようと鼓動を弱める中、襖が静かに開かれて今ちょうど思い浮かべていたあなたが顔を覗かせた。
心臓が止まるかと思った。
何十年もあっていないはずのあなたがそこにいたことも、その時の流れを感じさせないほどにあなたが変わっていないことも。
全てが信じられなかった。
「最期に会いたいなって」
何もかも変わらないあなたが、あなたへの思い以外は変わってしまった私に笑いかける。
しなやかな手のひらが私の皺だらけの手を包んだ。
何十年越しにあなたが言った同じ時は刻めないと言う言葉の意味を理解して涙が溢れる。
繋がっていない方の手で私の涙を拭ったあなたが、懐かしい笑顔を見せた。
「好きだよ。ずっと」
乾いてしまった声帯は、だけどあなたに言葉を返すために必死で音を紡ごうとする。
「わたしも、ずっと」
かさかさの声でも、あなたの鼓膜はきちんと震えたみたいだった。
緩く細められた瞳から雫が落ちて、私の周りに小さな水溜まりを作る。
「ごめんね、一緒にいられなくて」
震えた声で謝るあなたに、だけどもう返事を紡ぐ音は出なくてただ瞳を見つめて頷く。
また探すから、見つけるから、今度こそは隣にいてほしい。
ただただ真っ直ぐな声色と、繋いだ部分から伝わる温度に、最期にあなたに頷きと笑みを渡して、私の人生は幕を閉じた。

待ってるからね。
どうしてもあなたしか見れないんだから。
また生まれ変わったら、あなたの隣を私にください。

どうしても…

5/18/2025, 11:14:00 AM

じゃあね、と手を振って駆け出そうとする君に、何の宛もないのにまって、なんて呼び止める言葉が飛び出た。
「どうしたの?」
屋根と空の中間、すぐ後ろに雨空を背負って君が立ち止まる。
呼び止めたところで君を引き留める言葉を知らない僕は、目線を滴り落ちる雫に彷徨わせることしか出来ない。
少しかしげられた首に、柔らかそうな黒髪が揺れる。
「まだ雨降ってるからさ」
「うん」
「だからさ」
心臓が飛び出しそうなほどに鼓動を速める。
傘を持つ手に力が入った。
「もう少し、ここで話してかない?」
君の顔が見れない。
屋根を打つ雨音だけがやけに響いた。
君が小さく笑った声がする。
「うん。そうする」
安堵の息が漏れるのと一緒に手に入っていた力が抜けた。
顔を上げて交わった視線に、君が一歩前に出る。
「それでさ、その後は君の傘に入れてよ」
私、持ってないんだ、なんて綺麗な指が僕の手に収まる傘を指した。
また心臓が音をならす。
迷うまでもない返事を君に渡した。
君が太陽みたいな笑みを見せる。
あんまり好きじゃなかった雨の日が、大切な日になった。

まって

5/17/2025, 10:42:29 AM

一定に拍動を刻んでいた月島の心臓が、その役目を終えようと鼓動を弱めているのがわかった。
滲んだ世界で、誰よりも辛いはずの月島が見たことがないほどに柔らかい微笑みを浮かべる。
少し乾燥した唇が動いて、空気と共にかさついた私の名を放り出した。
それに、とうとう涙が溢れて月島の頬を濡らす。
困ったように眉を動かした月島が、まだ生を感じさせる温度を持った手のひらで私の拳を包み込んだ。
柔く触れたその指を少し強い力で絡めとる。
「まだ知らない世界でも必ず見つけるから。どうか、どうか待っていてくれないか」
絞り出した震える声に、待ってます、と小さい、でも芯の通った返事が告げられる。
約束だぞ、と呟いた声はもう月島に届いていたのか分からなかった。
安心したような顔で短い睫毛を揺らして瞳を閉じる。。
手の力が抜けて、結びついていた温度が自我を持たないまま離れようと滑り落ちた。
押し殺した嗚咽がやけに明るい日差しが差し込む部屋に響く。
頬を撫でる生ぬるい風がどこか初めて出会った日の温度を感じさせた。

まだ知らない世界

5/16/2025, 10:15:17 AM

何を失ったとしても、最愛の右腕を手放す勇気だけは出ない。
至極全うな顔でそう告げた私に、少し呆れた顔をした最愛は、俺だってあなたのそばを離れる勇気だけは出ませんよ、なんて私の世界をひっくり返す言葉を放った。

手放す勇気

また急に鯉月マイブームです。

5/15/2025, 1:45:29 PM

あなたを見た瞳が、あまりの輝きに潰れそうだと悲鳴を上げた。
それでも真っ直ぐに光を湛えた視線に照準を合わせて、心の奥底を揺さぶるような熱さを躊躇わずに受け止める。
暗闇だってあなたがいればいいと思えるような、そんな気持ちを愛と呼ばずしていったい何を愛と呼ぶのか、私には分からなかった。

光輝け、暗闇で

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