一定に拍動を刻んでいた月島の心臓が、その役目を終えようと鼓動を弱めているのがわかった。
滲んだ世界で、誰よりも辛いはずの月島が見たことがないほどに柔らかい微笑みを浮かべる。
少し乾燥した唇が動いて、空気と共にかさついた私の名を放り出した。
それに、とうとう涙が溢れて月島の頬を濡らす。
困ったように眉を動かした月島が、まだ生を感じさせる温度を持った手のひらで私の拳を包み込んだ。
柔く触れたその指を少し強い力で絡めとる。
「まだ知らない世界でも必ず見つけるから。どうか、どうか待っていてくれないか」
絞り出した震える声に、待ってます、と小さい、でも芯の通った返事が告げられる。
約束だぞ、と呟いた声はもう月島に届いていたのか分からなかった。
安心したような顔で短い睫毛を揺らして瞳を閉じる。。
手の力が抜けて、結びついていた温度が自我を持たないまま離れようと滑り落ちた。
押し殺した嗚咽がやけに明るい日差しが差し込む部屋に響く。
頬を撫でる生ぬるい風がどこか初めて出会った日の温度を感じさせた。
まだ知らない世界
5/17/2025, 10:42:29 AM