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誰だってきっと忘れられない人はいるだろう。
それが私にとっては最初の恋で、最後の恋で、誰よりも愛してやまないあなただった。
ふと遠い昔の記憶がよみがえって、乾いた咳と一緒に瞳から涙が溢れて頬を伝う。
私の人生が終わりを迎えようと鼓動を弱める中、襖が静かに開かれて今ちょうど思い浮かべていたあなたが顔を覗かせた。
心臓が止まるかと思った。
何十年もあっていないはずのあなたがそこにいたことも、その時の流れを感じさせないほどにあなたが変わっていないことも。
全てが信じられなかった。
「最期に会いたいなって」
何もかも変わらないあなたが、あなたへの思い以外は変わってしまった私に笑いかける。
しなやかな手のひらが私の皺だらけの手を包んだ。
何十年越しにあなたが言った同じ時は刻めないと言う言葉の意味を理解して涙が溢れる。
繋がっていない方の手で私の涙を拭ったあなたが、懐かしい笑顔を見せた。
「好きだよ。ずっと」
乾いてしまった声帯は、だけどあなたに言葉を返すために必死で音を紡ごうとする。
「わたしも、ずっと」
かさかさの声でも、あなたの鼓膜はきちんと震えたみたいだった。
緩く細められた瞳から雫が落ちて、私の周りに小さな水溜まりを作る。
「ごめんね、一緒にいられなくて」
震えた声で謝るあなたに、だけどもう返事を紡ぐ音は出なくてただ瞳を見つめて頷く。
また探すから、見つけるから、今度こそは隣にいてほしい。
ただただ真っ直ぐな声色と、繋いだ部分から伝わる温度に、最期にあなたに頷きと笑みを渡して、私の人生は幕を閉じた。

待ってるからね。
どうしてもあなたしか見れないんだから。
また生まれ変わったら、あなたの隣を私にください。

どうしても…

5/19/2025, 11:47:51 AM