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12/9/2024, 10:12:24 AM

『手を繋いで』

あなたと手を繋いで、家までの道を辿りましょう。

「手を繋いでほしい」
あなたの視線が私を射貫いた。
胸郭で心臓が暴れまわって、自分の顔が紅くなるのがわかる。
なにも言えないままただこくりと頷いて、少し冷たくなった手を差し出した。
「冷たいね。大丈夫?」
伝わるあなたの体温は燃えそうなほどに熱くて、あなたの緊張をそのまま伝える。
大丈夫だよ、なんて返して、はじめて繋いだあなたの手を、あなたと同じ力で握り返した。

12/8/2024, 10:02:16 AM

『ありがとう、ごめんね』

「ありがとう、ごめんね」
泣きそうな顔を奥に忍ばせるあなたにお決まりの言葉を投げる。
「ごめんねはなしね。私がしたくてしてるんだか」
風が吹いて、墓花立に挿した菊の花が揺れる。
とっくにいなくなったはずのあなたが、少し鮮明になって、すぐにまた薄くなった。
「何年目だっけ?」
「10年目かな」
じゃあ私は30歳か。
あなたがいなくなってから数えなくなった自分の歳を自覚する。
あなたはまだ、20歳の見た目のままだ。
「また来年来るね」
スカートについた土を払って立ち上がる。
花の香りが鼻腔をくすぐって、けれども残らないままぼんやり消えた。

私と出会ってくれてありがとう。
愛してくれてありがとう。
愛されてくれてありがとう。
全部を返せなくてごめんね。
君といられて、幸せだったよ。
来世ではどうか、また一緒に。

12/7/2024, 10:17:21 AM

『部屋の片隅で』

「なんで……!」
目を真っ赤に腫らした君が声を荒げる。
そんな君とは対照的に涙の一粒も出ない僕は、正しい返答すらわからないままだ。
「なんで私を見てくれないの……!!」
それは物理的にか、それとも心理的なものなのか。
そんなことを考えながらも、まだ僕の瞳は君の向こうの白い壁を映したままだ。
「…ごめんね」
最適解かと思ったその言葉は君の怒りをより燃やすだけで。
悲鳴に近いような泣き声をあげた君が、僕の腕を壁に押し付けた。
抵抗なんてする気もなく、触れたところから伝わる熱さと怒りを受け止める。
「私が好きなの、ばかみたいじゃん」
震えた声に湧き上がる言葉も、さっきと同じ謝罪の言葉だ。
それが申し訳なくて、情けなくて、それでも最良の選択肢を見つけられない。
どうしようもなく冷たい部屋の片隅で、はじめて君の目を見つめた。

彼氏くんがクズなのか、彼女ちゃんがヘラなのか。迷うところですね。

12/6/2024, 10:03:05 AM

『逆さま』

その砂時計が逆さまにされても、それでも君の隣にいたい。

「ずっと好きでした。付き合ってください」
漫画でしか見たことがないような台詞が、目の前の君から私に向かって放たれる。
しばし呆然として、すぐに世界が逆さまになったような衝撃を受けた。
吐いた息が白く凍って、それでもそんなことも気にならないほどに心臓は鼓動を早める。
君の視線が私をまっすぐに貫いた。
「返事はすぐじゃなくていいんだけど……」
緊張なのか寒さなのか、いや、きっと緊張なんだろうけど、震えた声で君が言葉を紡ぐ。
驚きのあまり固まってしまった声帯が、それでも私の気持ちを伝えるために震えた。
「私も、好きだよ」
あまりにも短くて小さい言葉だったけど、ちゃんと君の鼓膜は震えたみたいだ。
みるみるうちに顔が紅くなっていく。きっと、私の色と一緒。
冷たい風が頬を撫でる。
君のありがとう、なんて少し濡れた声が耳に届いた。
その時、私の世界が色を伴って逆さまになった。

12/5/2024, 10:01:58 AM

『眠れないほど』

眠れないほどに君を想って、やっとのことで眠りについたその夢で、君に出会った。

校舎裏に君を呼び出して、昨夜眠れないほどに緊張しながら考え抜いた告白の言葉を告げた。

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