『ありがとう、ごめんね』
「ありがとう、ごめんね」
泣きそうな顔を奥に忍ばせるあなたにお決まりの言葉を投げる。
「ごめんねはなしね。私がしたくてしてるんだか」
風が吹いて、墓花立に挿した菊の花が揺れる。
とっくにいなくなったはずのあなたが、少し鮮明になって、すぐにまた薄くなった。
「何年目だっけ?」
「10年目かな」
じゃあ私は30歳か。
あなたがいなくなってから数えなくなった自分の歳を自覚する。
あなたはまだ、20歳の見た目のままだ。
「また来年来るね」
スカートについた土を払って立ち上がる。
花の香りが鼻腔をくすぐって、けれども残らないままぼんやり消えた。
私と出会ってくれてありがとう。
愛してくれてありがとう。
愛されてくれてありがとう。
全部を返せなくてごめんね。
君といられて、幸せだったよ。
来世ではどうか、また一緒に。
12/8/2024, 10:02:16 AM