『逆さま』
その砂時計が逆さまにされても、それでも君の隣にいたい。
「ずっと好きでした。付き合ってください」
漫画でしか見たことがないような台詞が、目の前の君から私に向かって放たれる。
しばし呆然として、すぐに世界が逆さまになったような衝撃を受けた。
吐いた息が白く凍って、それでもそんなことも気にならないほどに心臓は鼓動を早める。
君の視線が私をまっすぐに貫いた。
「返事はすぐじゃなくていいんだけど……」
緊張なのか寒さなのか、いや、きっと緊張なんだろうけど、震えた声で君が言葉を紡ぐ。
驚きのあまり固まってしまった声帯が、それでも私の気持ちを伝えるために震えた。
「私も、好きだよ」
あまりにも短くて小さい言葉だったけど、ちゃんと君の鼓膜は震えたみたいだ。
みるみるうちに顔が紅くなっていく。きっと、私の色と一緒。
冷たい風が頬を撫でる。
君のありがとう、なんて少し濡れた声が耳に届いた。
その時、私の世界が色を伴って逆さまになった。
12/6/2024, 10:03:05 AM