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11/12/2024, 10:20:56 AM

『スリル』

スリル満点!と謳われたジェットコースターに、僕と君は今横並びで座っている。
え、なんで。なんでこうなったの。僕怖いの苦手なんだけど。
何もかもの元凶の君は楽しみだね、なんて快活な笑顔を見せた。
なにがだよ、という文句は呑み込んで、少しだけ震えているかもしれない声で質問を投げ掛ける。
「怖い?これ」
きょとんと効果音がつきそうな顔をした君が、みるみる笑顔になっていく。
「怖いの?ジェットコースターが?」
「聞いただけだよ」
「けっこう怖いよ」
ひゅっ、と喉が鳴った。
これ、今からでも降りられるかな。
そんなことを考えた途端に、発車いたします、とアナウンスがかかる。
詰んだ。
がたん、がたんと恐怖を煽る音を立てながら車体がゆっくり上昇する。
「わくわくするね」
隣の君が言葉通りの声色で呟くけど、それに返事をするほどの余裕は僕にはない。
何になるわけでもないけど必死にバーを掴んでいると、車体が止まった。
目の前には青い空。あ、綺麗、とか思ったその瞬間、車体が急加速で落下した。
「ぎゃあああああ!!」
自分から出たとはおおよそ信じられないほどの大声が空を切り裂く。
え、やばい。なにこれ。やばい。死ぬ。
今測ったら最高記録が出るんじゃないか、くらいの握力でバーを握る僕とは反対に、君はきゃあああなんて笑いながら両手を空へと掲げる。
正気か?
若干引いた。なんなら血の気も引いた。
もうその後は怖いし喉は痛いし君はおかしいしで大変だったけど、体感一時間くらいだった空の旅が終わって地上に戻った頃には楽しかったと言えるほどに回復していた。
すぐ目の前にあったベンチでアイスを食べて休みながら楽しかったね、と君が笑う。
怖かったけどね、と返す僕には、膝が震えるとか喉が嗄れたとか以上に困っていることがあった。
ジェットコースターを降りてから、君を見ると、どきどきする。
今までの経験則からそれは恋だとはっきりわかるわけで。
これが噂の吊り橋効果か?
僕ってけっこう単純だったのか。
なんて余計なことを考えてみるけど心臓は収まることを知らない。
あー、これからどうしよう。
心の中で頭を抱えながら、次はお化け屋敷行こうよ!と笑う君に頷いて見せた。

個人的には君が吊り橋効果を期待してジェットコースターとかお化け屋敷とかに行ってたら嬉しいです。
全く関係ないんですけど私が初めて乗ったのは志摩スペイン村のピレネーなんですよね。
怖かったです。
母と乗ったんですけど母は笑顔で引きました。
母は君タイプだったみたいです。私は僕タイプでした。
半分くらい意識失ってたんですけど、足元に見えた青空がトラウマすぎて吊り下げ式はもう乗らないって決めました。

11/11/2024, 10:01:11 AM

『飛べない翼』

飛べない翼を持つ私に、あなたはそのどこまでも飛んでいけそうな立派な翼をもって美しい景色を見せてくれました。
だから、そんなあなたが空を飛び疲れたときに休める地上の家でありたいと思います。

11/10/2024, 11:23:57 AM

『ススキ』

地元が田舎で、学校帰りにススキが生い茂っている公園で友達と遊んでいた記憶を思い出した。
毎日遊んでて、放課後が楽しみでしょうがなかった。
今は高校が違くなって遊ぶことは減ったけど、会ったら毎日遊んでた頃の雰囲気に戻れる関係性と友達が大好きです。

11/9/2024, 10:36:03 AM

『脳裏』#78

あなたの優しい笑顔を脳裏に焼きつけて、今から始まる手術室の戸をくぐった。

脳裏によぎるあなたの笑顔には気づかないふりをして、目の前で微笑むあなたとは違う人に微笑みを返した。

母もこのアプリを使っているんですよね。むしろ私が母に勧められて始めたんですけど。
たまに母の作品を見るんですけど(お気に入りに追加してます)すっごいいい文章のはずなのに脳裏に母の「いい話やろ?やろ?」と言う顔がちらついてハートが押せないんですよ。
ほんとにどうしましょう。

11/8/2024, 10:19:15 AM

『意味がないこと』

「月島!?」
どこまでもよく通る声が俺の名を大声で呼ぶ。
ただでさえ声大きいんだから気を付けてくださいよ、と言おうとして、その声が約100年ぶり、つまり前世ぶりだと言うことに気づいた。
「鯉登さん!?」
世界の喜び全部詰め込みました!みたいな顔であなたが笑う。
なんだ、これ。夢か。夢だな。そうだ。
勝手に結論付けた俺を尻目に、あなたが大股で近づいてきてそのまま背中に手を回す。
「会いたかった…。やっと会えた…。探しとったんだぞ」
離さないぞとばかりに自身の方に俺を引き寄せるその腕から伝わる体温は、おおよそ夢とは思えないほど生の温かさを持っていた。
「おひさし、ぶりです」
何を言えばいいかなんて経験がないからわからなくて、たどたどしく言葉を紡ぐ。
うん、と可愛らしく返事をするその声が濡れていることに気づいてしまった。
だけど気づかなかったふりをして前世と身長差は変わらなかったその背中に手を回す。
「探しててくれたんですか」
「当たり前じゃろ」
「俺も、探してました。会いたかったです」
整った顔をぐちょぐちょにしながら、それでも俺にとっては一番好きな顔をして見せる。
「どのくらい探してくれてたんですか」
「生まれたときからだ」
「なんでそんな…」
思った以上の長さに言葉をなくす。見た感じ二十歳過ぎくらいだろうか。え、長。四半世紀じゃん。
「だって、わいが来世でも探してくださいって言ったんじゃろ」
前世のその言葉を覚えていてくれたのか。
あんな、死に際の口約束を。
そんな約束だけで、いるかもわからない俺を生まれたときからずっと。
心臓が胸郭で暴れまわって、あなたへの愛情を知らせる。
100年経ってもいまだにあなたに掴まれたままの心を愛しく思いながら、あなたの隣でしか出ない笑顔で笑って見せる。
あなたのその言葉だけで、笑顔だけで、意味がないことなんてなかったんだと思い知らされた。

ゴールデンカムイより鯉月です。現パロです。
鯉登さん目線が書けない。もはや七不思議です。残り6つどこよ。
最初鯉登さんにするか鯉登少尉にするか迷ったんですよね。諸事情で鯉登さんになりました。
なんやかんや言ってますけどたぶん月島さんも生まれたときから鯉登さん探してます。
ちなみに月島さんが前世で言ったのが「探してください」だったのは「探してくれますか」よりももっと近しい頼みごとじゃなくて願いとかを言えるような存在に鯉登さんがなっててほしい(語彙力どこ)というオタクの願いです。

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