『スリル』
スリル満点!と謳われたジェットコースターに、僕と君は今横並びで座っている。
え、なんで。なんでこうなったの。僕怖いの苦手なんだけど。
何もかもの元凶の君は楽しみだね、なんて快活な笑顔を見せた。
なにがだよ、という文句は呑み込んで、少しだけ震えているかもしれない声で質問を投げ掛ける。
「怖い?これ」
きょとんと効果音がつきそうな顔をした君が、みるみる笑顔になっていく。
「怖いの?ジェットコースターが?」
「聞いただけだよ」
「けっこう怖いよ」
ひゅっ、と喉が鳴った。
これ、今からでも降りられるかな。
そんなことを考えた途端に、発車いたします、とアナウンスがかかる。
詰んだ。
がたん、がたんと恐怖を煽る音を立てながら車体がゆっくり上昇する。
「わくわくするね」
隣の君が言葉通りの声色で呟くけど、それに返事をするほどの余裕は僕にはない。
何になるわけでもないけど必死にバーを掴んでいると、車体が止まった。
目の前には青い空。あ、綺麗、とか思ったその瞬間、車体が急加速で落下した。
「ぎゃあああああ!!」
自分から出たとはおおよそ信じられないほどの大声が空を切り裂く。
え、やばい。なにこれ。やばい。死ぬ。
今測ったら最高記録が出るんじゃないか、くらいの握力でバーを握る僕とは反対に、君はきゃあああなんて笑いながら両手を空へと掲げる。
正気か?
若干引いた。なんなら血の気も引いた。
もうその後は怖いし喉は痛いし君はおかしいしで大変だったけど、体感一時間くらいだった空の旅が終わって地上に戻った頃には楽しかったと言えるほどに回復していた。
すぐ目の前にあったベンチでアイスを食べて休みながら楽しかったね、と君が笑う。
怖かったけどね、と返す僕には、膝が震えるとか喉が嗄れたとか以上に困っていることがあった。
ジェットコースターを降りてから、君を見ると、どきどきする。
今までの経験則からそれは恋だとはっきりわかるわけで。
これが噂の吊り橋効果か?
僕ってけっこう単純だったのか。
なんて余計なことを考えてみるけど心臓は収まることを知らない。
あー、これからどうしよう。
心の中で頭を抱えながら、次はお化け屋敷行こうよ!と笑う君に頷いて見せた。
個人的には君が吊り橋効果を期待してジェットコースターとかお化け屋敷とかに行ってたら嬉しいです。
全く関係ないんですけど私が初めて乗ったのは志摩スペイン村のピレネーなんですよね。
怖かったです。
母と乗ったんですけど母は笑顔で引きました。
母は君タイプだったみたいです。私は僕タイプでした。
半分くらい意識失ってたんですけど、足元に見えた青空がトラウマすぎて吊り下げ式はもう乗らないって決めました。
11/12/2024, 10:20:56 AM