『鋭い眼差し』
BL要素あります。お気をつけください。
あなたの鋭い眼差しに射貫かれて、足がすくんだ。
気づけば目前に迫ってきていた瞳から目を逸らせないまま、壁とあなたの間に挟まれる。
緩く掴まれた手首に、ほんの少し、ひりついたような痛みが走った。
「一人で行くなと言ったのはお前だろう?なのに、なんで私を一人にするんだ」
怒りに満ちたように吐き出すその言葉は、その実は寂しさと切なさを孕んでいた。
尋ねている風でもない言葉に適切な返事が見つからなくて、ただただ整った顔を見つめる。
ぴりつきながらも湿り気を含んだ空気は、まるであなたの心を反映したようだった。
俺の手首を掴む手に力がこもる。
普段はつり上がっている眉毛をハの字に下げながら、願うように、祈るように、あなたは微かに震えた声で言葉を紡いだ。
「私にはお前が必要なんだ。置いていかないでくれ。頼むから、一人にしないでくれ。私は、お前がいないと、だめなんだ」
どうしてだか、そんな顔を見たくないと思った。
あなたには、笑っていて欲しいだなんて。
あなたには、幸せでいて欲しいだなんて。
その感情を言い表す言葉が『愛』ということに気づくのに時間はいらなかった。
空いている方の手であなたの頬を撫でる。
少し肩を震わせたあなたが、鋭さを削いだ代わりに僅かに潤ませた視線を寄越した。
「つきしま…」
「俺が隣にいていいんですか」
喉の奥から絞り出した声は、自分でも笑えるくらいに震えていた。
「ばかすったれ。わいがいいんじゃ」
乱暴に袖で涙を拭ったあなたが、その手で俺を抱き締める。
俺も、あなたの背中に手を回した。
「俺もあなたがいいです」
ゴールデンカムイより鯉登さんと月島さんです。
今回はカプ要素なしで書こうと思ったんですけどねぇ。おかしいな。
最後がいい感じに締められなくて無念です。
『高く高く』
高く高く浮かぶまんまるの月を見て、あなたが柔らかく目を細める。
「綺麗だなぁ」
あなたの言葉にどくり、と鼓動を早める心臓を静めながら、そうですね、と相槌を打った。
あなたがこちらを向いた気配がする。
「この意味は知っているのか?」
今度こそ心臓が大きな音を立てた。
「……え」
「愛している」
あなたの手が私の頬を撫でる。
私といえば、口を開いては閉じてを繰り返して、あなたを見つめるばかりだ。
「その反応は勘違いしてしまうぞ」
いつも通りの口調で、だけど少し声を震わせながら言葉を紡ぐあなたがたまらなく愛おしくて、こくりと頷いて見せた。
「勘違いしても、いいんですよ」
あなたが声を詰まらせる。
「私だって、あなたのことが…」
全てを言い終える前に、あなたの唇が重なった。
好き、という言葉があなたの口に吸い込まれていく。
さっきまで私の瞳を占領していた月だって、今はあなたに塗り替えられて、形すらも思い出せなくなっていた。
いや、もしかしたら、私の瞳にはずっと前からあなたしか。
毎度恒例好きなカプで書かせていただきました。珍しく現パロじゃないです。
どうぞよしなに。
『子供のように』
いつも冷静で大人っぽいあなたの子供のように泣きじゃくる姿に少し戸惑いつつも、安堵を覚えた。
いつも求められる姿である必要はないんだよ。
どうか、私の前だけでもありのままのあなたを見せてね。
『放課後』
放課後の教室で私を待つ君を静かに見つめる。
髪を耳にかけながら静謐な雰囲気を纏う君を知っているのは、今のところ私しかいないんだ、なんて歓喜の感情が静かに胸を支配する。
わざと大きな音を立てて扉を開けた。
「おかえり。お疲れ」
柔らかく笑う君にただいま、と笑い返しながら隣の席に腰掛けた。
私の中で仄かに、でも確かに存在を主張する独占欲には気づかないふりをして、君の隣に並ぶ私を、君はどう思うのだろうか。
驚くだろうな。軽蔑するかな。それとも…。
まだ見ぬ表情の君に想いを馳せながら、君の髪を撫でた。
『カーテン』
カーテンが風で揺れたその向こうに、誰の姿もないことに孤独を感じる。もう君はいないんだ、なんてことを考えるのも馬鹿馬鹿しくなるくらい、君は私の生活から痕跡を消し去っていた。
生活の中から君はいなくなっても、私の心からはまだ消えないようで。
少し熱くなった目を意識の外に飛ばすように、君の好みじゃないベージュのカーテンを閉めた。
大好きなコレサワさんのたばこにインスパイアされて書かせていただきました。