『高く高く』
高く高く浮かぶまんまるの月を見て、あなたが柔らかく目を細める。
「綺麗だなぁ」
あなたの言葉にどくり、と鼓動を早める心臓を静めながら、そうですね、と相槌を打った。
あなたがこちらを向いた気配がする。
「この意味は知っているのか?」
今度こそ心臓が大きな音を立てた。
「……え」
「愛している」
あなたの手が私の頬を撫でる。
私といえば、口を開いては閉じてを繰り返して、あなたを見つめるばかりだ。
「その反応は勘違いしてしまうぞ」
いつも通りの口調で、だけど少し声を震わせながら言葉を紡ぐあなたがたまらなく愛おしくて、こくりと頷いて見せた。
「勘違いしても、いいんですよ」
あなたが声を詰まらせる。
「私だって、あなたのことが…」
全てを言い終える前に、あなたの唇が重なった。
好き、という言葉があなたの口に吸い込まれていく。
さっきまで私の瞳を占領していた月だって、今はあなたに塗り替えられて、形すらも思い出せなくなっていた。
いや、もしかしたら、私の瞳にはずっと前からあなたしか。
毎度恒例好きなカプで書かせていただきました。珍しく現パロじゃないです。
どうぞよしなに。
『子供のように』
いつも冷静で大人っぽいあなたの子供のように泣きじゃくる姿に少し戸惑いつつも、安堵を覚えた。
いつも求められる姿である必要はないんだよ。
どうか、私の前だけでもありのままのあなたを見せてね。
『放課後』
放課後の教室で私を待つ君を静かに見つめる。
髪を耳にかけながら静謐な雰囲気を纏う君を知っているのは、今のところ私しかいないんだ、なんて歓喜の感情が静かに胸を支配する。
わざと大きな音を立てて扉を開けた。
「おかえり。お疲れ」
柔らかく笑う君にただいま、と笑い返しながら隣の席に腰掛けた。
私の中で仄かに、でも確かに存在を主張する独占欲には気づかないふりをして、君の隣に並ぶ私を、君はどう思うのだろうか。
驚くだろうな。軽蔑するかな。それとも…。
まだ見ぬ表情の君に想いを馳せながら、君の髪を撫でた。
『カーテン』
カーテンが風で揺れたその向こうに、誰の姿もないことに孤独を感じる。もう君はいないんだ、なんてことを考えるのも馬鹿馬鹿しくなるくらい、君は私の生活から痕跡を消し去っていた。
生活の中から君はいなくなっても、私の心からはまだ消えないようで。
少し熱くなった目を意識の外に飛ばすように、君の好みじゃないベージュのカーテンを閉めた。
大好きなコレサワさんのたばこにインスパイアされて書かせていただきました。
『涙の理由』
誰にも言えない涙の理由を、どうか私には話してくれませんか。