君と別れて1年が過ぎている。
そろそろ、あの頃を忘れるために君との思い出の物を捨てようとごみ袋を広げる。
だけど、思い出してしまう。楽しかったあの日々を。
捨てようとすればするほどに蘇り、手が止まる。
ああ、早く前へ進まないと行けないのに忘れたくないと
縋りついてしまう。
そうして、捨てられず蹲ってまた一日が終わる。
まだ、この未練と思い出を僕は捨てられそうにない。
『いつまでも捨てられないもの』
夜の海は暗く、どこまでも闇が広がっている。
その闇に吸い込まれるように靴を脱ぎ裸足になって砂浜へ行く。海に足をつけると冷たくて気持ち良かった。
ザザーッ、と波の音だけが響いてなんだか私一人しか
この世界にいないような気分になる。
あなたもこんな気持ちだったのだろうか。
「───いっそ、この闇に溶けて消えてしまえたらいいのに。」
あなたの泣きそうな声が頭をよぎる。
ああ、あなたはきっと光も届かない夜の海に溶けて消えてしまったのだろう。私を置いて。
「ねえ、私一人ぼっちは嫌だよ。」
そう呟いた時、冷たい潮風が吹き目を瞑る。目を開けると月の光に照らされるあなたがいた。
「ごめんね、一人にして。でももう大丈夫だよ。」
涙が落ち、海の中に消える。やっぱりあなたは私を迎えに来てくれた。だって何があってもずっと二人で支え合うと約束したのだから。
「……もう、遅いよ。ずっと待ってたんだから。」
たとえこの先が死であっても。一人で生きる寂しさに
比べたら。ちっとも怖くない。
そして、その白い手に私は自分の手を─────
『夜の海』
自転車に乗ると自分が風になったようで気持ちがいい。
通り過ぎていく木や建物、坂から一気に降りていく時の
スリルと綺麗な景色。
自転車はどこへでも私を連れて行ってくれる。
色んなストレスも自転車に乗って色んな所へ行けば私の心は晴れていく。
そして、今日も自転車に乗って私は行く。
『自転車に乗って』
心の健康を保つためにはどうすればいいだろうか。
好きな事をする? 少し休む? 全てから逃げる?
でも、それは一時的なものに過ぎない。
そんなことをしても心はどんどん不健康になるだけ。
生きることの辛さから汚れていった私の心はとっくに限界でただ蹲ることしか出来ない。
いつから外に出ていないかも分からない。
心の健康を元に戻す薬なんてものはない。
そんな風にすべてを諦めて死ぬこともできずに今日も私は生きている。
『心の健康』
君と初めて出会ったのはあのひまわり畑。
飛んできた麦わら帽子を俺が拾い、君が後ろを向いて振り返って「ありがとう。」と言った時に恋に落ちた。
眩しい太陽の光を背に笑うあの長い黒髪と真っ白な肌が
俺の頭から離れない。
「……あなたも私と一緒に来る?」
その言葉の意味はわからないけど差し伸べられた手を俺は掴もうとした。
まあ、友人に声をかけられて結局は掴めなかったが。
だけど目を離した瞬間に君はいなくなってしまった。
残ったのは、拾った麦わら帽子だけ。
また夏が来たら、俺はあのひまわり畑へもう一度行く。
今度こそ君の手を掴むために。
もしかしたらあの手を掴んだら俺は二度とここに帰ることは出来ないのかもしれない。
でも、それでもいいのだ。彼女に会えるのならなんだっていい。
ああ、早く夏になれ。麦わら帽子を手に取り、彼女に思いを馳せる。
『麦わら帽子』