「10年後も仲良く出来たらいいね。」
それは中学生の頃。まだ大人になるなんて夢みたいに考えていた頃。私と友人はそんなことを話していた。
ずっとずっと自分たちは親友だと信じていたのに、私達はいつの間にか仲違いを起こし連絡することもなくなっていた。理由はきっと彼女の方が優れていて羨ましいだとかそんなくだらない嫉妬だろう。
今一人きりで仕事をしながら暮らしていて思う。この年になるとあまり友達なんてできなくなる。だってもう人の事など信じられなくなってしまったから。
いつもいつも考えてしまう。あの頃に戻りたいと。
何も考えず友人と遊んでいた懐かしい思い出の中へ。
そんなことは叶わないと知りながら。
『友だちの思い出』
今日、人を殺した。仕方のないことだったのだ。
だって彼は思い込みの激しい人で浮気なんてしていないのにそう見えただけで殴って喚いたり、友達の連絡先を消そうとしたりするから。だから私は。私は彼を。
悪くない、私は悪くない。これからどうしようと考えていた時、あることを思いついた。
車に彼を載せ、目的地まで向かった。そこは海。
彼をなんとか背負いながら深く、深く沈んでいく。
できるなら、仲直りをしてまた一緒に暮らしたかった。
でも、もうそれは叶わない。来世では彼と穏やかに
暮らすことができますように。
しばらくして二人の男女が失踪したとニュースで報道されて世間では様々な噂が囁かれるが真相は神様だけが
知っている。
『神様だけが知っている』
目の前に一つの道がある。
この道を進んだ先に一体何があるのだろう。そこに未来があるのか、それともなにもない闇だけなのか。
急に足がすくむ。この道を進むということはこの先どんなに恐ろしい事があってももう戻れないのだ。
だけど、進まなければ。いつまでもここにいて幸せになることなど出来ないのだから。
前を向き一歩進む。さらに前へ。その先には───、
パチリ、とそこで目が覚めた。なんだか不思議な夢を見たなと思いながらカーテンを開ける。
眩しい朝の光は心を穏やかにしていく。
そういえば、道を歩く夢は物事が順調に歩んでいるという暗示であるらしい。確か最後に見えた物は光だった。
ならば、私はこれからも順調に人生を歩めるだろう。
「今日もいい一日になりそうだ。」
そんなことを呟きながら朝の支度を始めた。
『この道の先に』
それは突然の事だった。
「ねえ、私好きな人ができたの。」
「えっ、本当?そっかぁ、遂に私の親友に春が訪れち
ゃったかー。」
私が何処か面白そうな声を出すと彼女は頬を膨らませて
拗ねたような顔をして言った。
「もう、からかわないでよバカ。」
「ごめんごめん。で、相手は?」
「隣のクラスの〇〇君。」
「おお、女子に人気の彼か。うーん、これはまたアドバイスが難しいな。」
「だよね。私如きがって分かってるんだけど、でも
諦められないの。」
「うんうん、貴女はいつも引っ込み思案なんだから好きな男の子を狙う時くらい強気でいかないとね!安心してよ。私が恋のキューピッドになってあげるから。」
「ありがとう!」
彼女は花が咲いたように笑う。胸の中に黒い染みが広がる感覚がする。
「それでね───」
彼女の声が遠くに聞こえる。ああ、辛い。
たった今私は失恋した。当然だ。彼女は格好良くて素敵な男の子が好きなのだ。私は女で親友。
それ以上はどんなに願っても叶わない。ふと窓を見る。
窓越しに見えるのは嫉妬と失恋した悲しみに塗れた哀れな女の酷い顔だった。
『窓越しに見えるのは』
運命の赤い糸。いずれ結ばれるべき二人の男女の小指に
絡まれた決して見えない、切れない赤い糸。
「なあ、運命の赤い糸って信じるか?」
「なにそれ少女漫画にでもハマったの?」
「実はさ、俺見えるんだ。」
「───今なんていったの?」
「だから見えるんだって、赤い糸。」
そんな突拍子もないことを彼は私に向かって語る。
「何で今そんな嘘をつくのよ。」
「俺が嘘なんてつくと思うか?」
「はぁ、まあいいわ。じゃあ見えるとしてあなたから見たらどんな風になってるのよ。」
「ああ、すげぇぜ。街中長い糸だらけでさ、特にそこら辺でイチャイチャしてるカップルなんて小指に巻き付き過ぎすぎて痛くねぇのかってなるくらい。まあ別れそうなカップルは逆に糸は細くて切れそうだけどな。」
冗談にしては結構現実味のある喋り方で信じてしまいそうになる。もし本当だとしたら気になることがある。
「じゃあ私はあなたと結ばれているのね。」
そう言うと彼は一瞬無表情になる。だがすぐに笑顔になって言った。
「当たり前だろ?俺たち付き合ってるんだから。」
その顔に違和感を感じて私は話題を変えた。
翌日学校へ向かい席に着くと隣の席でよく話す彼に話しかけられる。
「おはよう。昨日の宿題やった?ページ数多くて大変だったよね。」
「ええ、まったくあの先生本当厳しくて嫌になるわ。」
そう言いながら彼の方へ向こうとすると急に小指を引っ張られる感覚がした。顔を上げると彼と私の間には赤い糸が見え私の糸はまるで今まで無理やり結ばれていたかのようにグニャグニャに曲がっている。
「どうしたの?」
彼の心配する声が聞こえる。どういうこと。頭が混乱してなにも考えられなくなる。一つだけ分かることは彼は嘘をついていると言う事だけだ。
俺には物心ついた時から運命の赤い糸が見える。とてもいい雰囲気の恋人たちの小指にはお互いの糸がきつく結び合っているが、逆に喧嘩をしている恋人たちの小指は細く今にも切れそうで実際両親の糸は切れていて、その後すぐに離婚した。糸が人生を左右すると分かった時に幼馴染の彼女の糸を見た。その糸は俺とは繋がっていなかった。何で。何で俺じゃないんだ。
俺はこんなにも好きなのに結ばれる事はないのか。その瞬間あることを思いついた。まだ彼女は運命の相手と出会っていない。だったらそんな運命は変えてしまえばいい。俺は彼女から見えないように赤い糸を無理やり切り自分の糸と繋げた。これで大丈夫。まだ俺は知らない。
彼女の運命がすぐ近くにいることを。彼女に嘘がバレてしまった事をまだ俺は知らない。
『赤い糸』