正直に言うと、人生ってだるくてめんどくてかなしい
だから、いったんばいばい
「あ〜、雨じゃん。ユウウツになるね」
おー、と返事をする彼女を横目に、
俺は心の中でガッツポーズをした。
(これ...あいあい傘のチャンスじゃん!)
だが人呼んで、話せば残念、歩く姿は奇行種の俺だ。
(絶対普通に誘ったら断られる...!!)
それだけは勘弁。俺はイケメン。片思い歴3年の男。
いける。いけるはず...。
「あ、なあ」
「何?どうかしたん?」
「あ〜、えっと。傘忘れたから入れてくれ」
「お前朝ビニール傘差してきてたじゃん」
「あ」
忘れてた。完全に忘れてた。
いや、まだいける。
「教室に忘れてきてさ」
「お前の腕見てみろよ」
「あ」
あった。今朝買ったビニール傘が。
いやいやいや。さすがにおかしい。誰かの陰謀だ。
いや、いやぁ...まだ、いける?
「さっきからお前おかしいぞ。どうしたんだよ。」
彼女が聞いてきた。これが正真正銘最後のチャンス。
「あいあい傘してぇな〜的な?」
「は?」
言われちまった。お前何言ってんだの感嘆符。
昔からこれが怖くて自分の本音言えんかった。
「ほら」
「え?」
「早くしろって言ってんの。雨止んじゃうから」
「あっと...よろしくお願いします...?」
「ハハッなんだよそれ」
もう雨は止み始めている。
「走ろ!」
ただ必死に走って走って...
今視界の端に見えたのは、若い頃の私のママ。
大きいお腹の中には私がいるのかな。
いま追い越したのは私の母校。
あの先生、元気かな。
流れてきたのは私が好きだった歌手の歌。
狂ったように毎日のように聞いてたっけ。
空はレイヤーを被せたみたいに赤くて、
道は影さえできない。
それでも走らなきゃ。
私は、きっとこの先を知らなくちゃいけない。
しばらく走って見えてきた。
あれは。
あれは、赤ちゃんがいなくなったときの私。
死産だった。
夫も、親も、義親も、慰めてくれた。
けど、そのせいで余計辛かった。申し訳なかった。
ママみたいに、私みたいに、
元気に産んであげたかった。
あなたは私を恨んでるかな。
名前、決めてたんだ。
女の子って言われたから、
どんな名前がいいだろうって毎夜、夫と話して...。
あなたの名前は、心愛って言うの。
優しくて、愛を沢山受ける子になって欲しいから。
ベビーカー買って、
ちょっと早いかもだけど、服も買って。
心愛と話せるのを楽しみにしてた。
本当にごめんね。
だめな母親でごめんね。
いつか、あなたと出逢えたなら。
溢れるくらいの愛と、優しい言葉をかけたいな。
またね、心愛。
「ごめんね」って言われた、月曜の3時半。
君のことは好きだけど恋愛的な好きじゃないって。
悲しかった。
物心ついてからずっと隣に居たんだもん。
あなたのことは何でも知ってるつもりだった。
きっと将来はあなたと幸せになるって思ってた。
けどね、ちょっと嬉しくもあるんだよ。
いつも返事を濁すあなたが、
いつも笑ってごまかすあなたが、
胸を張って、私の目を見て、
「ごめんね」
って言ってくれたから。
あなたの好きな人はどんな人なんだろう。
きっとあなたの隣が似合う人で、
その人の隣はあなたが1番似合うのだろう。
もうちょっとだけ、頬の雨を汗と騙されてほしい。
今日が真夏で良かった。
大好きだったあなたへ。
ごめんなさい。
さっき言った「大丈夫」は嘘なんです。
でも、本当にあなたの幸せを願っているから。
だから、あなたとその人の結婚式には、
ちゃんとお客さんのひとりとして呼んでくださいね。
私はきっとあなたのことを忘れられない。
次の恋にはまだたどり着けそうもない。
けど、けどさ、これはきっと新しいスタートだから。
幼い私へごめんなさい。あなたの夢は叶えられない。
昨日の私へごめんなさい。手紙、渡せなかった。
明日の私へ
大丈夫、きっと上手くいくから。
この涙は恋する私への献花にしてくれ。
ばいばい、ばいばい。また明日。
君が半袖を着てきた。
もうそんな季節なのか。
そういえば、中間が近いもんな。
中間。
中間試験。
.....................。
勉強しないと、と思うたびに
自分の数少ないやる気が干上がっていく。
教室の窓を開けて身を乗り出す。
来年からは教室にエアコンがついて、
窓には転落防止用の突っ張り棒がつく。
こうして柔らかい風を感じられるのもあと少し。
夏って暑いから嫌だけど、
なんでか大好きなんだよな。
ああでも暑すぎる。
早く紅葉が散りますように。