「成人おめでとう、鈴木!」
「ありがとう。齋藤こそ…って言いたいけどあんた早生まれだもんな。」
「そうなんだよ!俺だけ成人式後の打ち上げで酒飲めねーんだよ!」
「別に飲んだってバレないだろ。」
「…気分の問題だよ、気分。悪いことって分かってるからさ、なんか嫌な気分になっちまう。」
齋藤とは小学校の入学式の日、席が前後だった時から交流が始まった。さいとうとすずきは五十音順の席だとかなり近くなのだ。
齋藤は昔から真面目な奴だった。クラスメイトが嫌がってサボったトイレ掃除は進んでやっていたし、誰も手を挙げないクラス委員にも積極的に参加していた。
クラスみんなが使っていた他人の家の敷地を通る近道だって、齋藤は1度も通らなかった。
「齋藤ってさ、なんでそんな真面目なの?」
つい口から溢れた問いに、齋藤は少し困ったように答えた。
「さっきも言っただろ?悪いことをすると嫌な気分になるんだ。真面目で居るって楽だぜ?」
「…それだけ?」
「それだけ。」
きっと彼は20歳になるまで酒を飲まないのだろう。
それはなんだか…なんだか、とても素敵な事のように感じた。
「星って、色んな色があるじゃん?」
コンクールの日。緊張していた私に、先輩はそう話し始めた。
「色、ですか?」
「そう、色。例えば…シリウスは青かったり、ペテルギウスは赤かったり。そりゃもう、色とりどり。」
それがピアノの演奏に何の意味があるのか?疑問符を浮かべる私に気づいたのか、先輩は慌てた様子で口を開いた。
「あー、だから、なんて話じゃないんだけどさ。彼女の演奏の方が君の演奏より評価されるものであっても、君は君らしい音楽を弾いてくれれば良いんだ。ピアノの音には、星の色にだって負けないくらいの音色の数がある。どうか君の色を、弾いて欲しい。」
「…はい。」
アナウンスが終わった。私のパフォーマンスが始まる。
私の色なんて、さっきの今で見つけられだ訳じゃないけど、やれるだけやってみよう。
あの人が信じてくれた様に、先輩が言ってくれたように、
気張らず、私の音を響かせよう。
何も無い荒野を歩き続ける。
不思議と喉は乾かないし、腹も減らない。
ただただ、何も無い荒野を歩き続けている。
祈りの果て
ある日世界は崩壊した。まるで小説のような話だが、他の星の生命体が地球を滅ぼしたらしい。らしい、と言うのも、壊れかけのラジオからの情報だからで、自分ではその様子をついぞ見たことがなかったからだ。
あの日の放課後、自分は教室でうたた寝をしていたはずなのだ。轟音で目が覚めて、当たりを見渡すと一面の荒野。自分の目をあんなに疑ったのは初めてだった。
それから、近くに古いラジオが置いてあることに気がついた。聞こえてくるのは砂嵐の音だけだ。それでも何か役に立つかもしれないと考え、手に取った。
それから、ずっとこの荒野を歩き続けている。
それから、ずっとこの荒野を歩き続けていた。
とうとうオンボロラジオが壊れた。とはいえ、あの日以来放送なんて一度も掛かっていなかったが。
ラジオを荒野に置いていき、また歩き始める。
それから、ずっとこの荒野を歩き続けていた。
民家を見つけた。第一村人は居なかったが。
パンと水を少し拝借して食べた。不思議と味はしなかった。我に返りこの家の住民への謝罪の為に1週間ほど滞在したが、自分以外がドアを開けることは無かった。
それから、ずっと、ずっと歩き続けていた。
不思議と疲れは無いし、喉も乾かないし、腹も空かない。だけど、歩き続けるやる気が出ず、私は荒野に座り込んだ。
いつまで歩けばいいんだ。どこまでゆけばいいんだ。
そもそもここはどこだ。どうやったら帰れるんだ。
家に帰してください、と胸の中で祈ってみる。
案の定、何も起きなかった。
私はゆっくりと立ち上がり、また歩き始めた。
それから、ずっと、この荒野を、歩き続けている。
「もう少しだ…もう少しで助かる!しっかりしろ!」
背中に担いだ友に、そう言った。
返事は帰ってこない。
ここは、砂漠。
四方八方が砂ばかり。気がついたらここにいた。
大方、寝坊したから作戦に置いていかれたんだろうが、しばらく飲まず食わずだったせいか、自分も友も疲弊していた。
「大丈夫だ……もう少し、もう少しだ……」
その言葉は、友に向けたものか。それとも、自分に言っているのか?
長い長い足跡を付けながら、
旅は続く。
永遠なんて、ないけれど…
永遠なんて、欲しくは無いけれど……
それでも、貴方への愛は、きっと永遠の物なのです