何も無い荒野を歩き続ける。
不思議と喉は乾かないし、腹も減らない。
ただただ、何も無い荒野を歩き続けている。
祈りの果て
ある日世界は崩壊した。まるで小説のような話だが、他の星の生命体が地球を滅ぼしたらしい。らしい、と言うのも、壊れかけのラジオからの情報だからで、自分ではその様子をついぞ見たことがなかったからだ。
あの日の放課後、自分は教室でうたた寝をしていたはずなのだ。轟音で目が覚めて、当たりを見渡すと一面の荒野。自分の目をあんなに疑ったのは初めてだった。
それから、近くに古いラジオが置いてあることに気がついた。聞こえてくるのは砂嵐の音だけだ。それでも何か役に立つかもしれないと考え、手に取った。
それから、ずっとこの荒野を歩き続けている。
それから、ずっとこの荒野を歩き続けていた。
とうとうオンボロラジオが壊れた。とはいえ、あの日以来放送なんて一度も掛かっていなかったが。
ラジオを荒野に置いていき、また歩き始める。
それから、ずっとこの荒野を歩き続けていた。
民家を見つけた。第一村人は居なかったが。
パンと水を少し拝借して食べた。不思議と味はしなかった。我に返りこの家の住民への謝罪の為に1週間ほど滞在したが、自分以外がドアを開けることは無かった。
それから、ずっと、ずっと歩き続けていた。
不思議と疲れは無いし、喉も乾かないし、腹も空かない。だけど、歩き続けるやる気が出ず、私は荒野に座り込んだ。
いつまで歩けばいいんだ。どこまでゆけばいいんだ。
そもそもここはどこだ。どうやったら帰れるんだ。
家に帰してください、と胸の中で祈ってみる。
案の定、何も起きなかった。
私はゆっくりと立ち上がり、また歩き始めた。
それから、ずっと、この荒野を、歩き続けている。
「もう少しだ…もう少しで助かる!しっかりしろ!」
背中に担いだ友に、そう言った。
返事は帰ってこない。
ここは、砂漠。
四方八方が砂ばかり。気がついたらここにいた。
大方、寝坊したから作戦に置いていかれたんだろうが、しばらく飲まず食わずだったせいか、自分も友も疲弊していた。
「大丈夫だ……もう少し、もう少しだ……」
その言葉は、友に向けたものか。それとも、自分に言っているのか?
長い長い足跡を付けながら、
旅は続く。
永遠なんて、ないけれど…
永遠なんて、欲しくは無いけれど……
それでも、貴方への愛は、きっと永遠の物なのです
あの時、君を引き止めていれば。
あの時、君に何か言えていたら。
言い出せなかった「 」
思えば君とは長い付き合いで、僕が色々な事情でこの地域の人達に引き取られた時から、ずっと傍に居た気がする。歳も近かったし、家もお隣同士で、お互い外で遊ぶのが好きで、隠れん坊よりは鬼ごっこ派で、袋菓子をひとつ買うよりも沢山の小さいお菓子を買う方が好きだった。
中学校に入ってからは、顔を合わせるのも気恥ずかしくて、遊ぶ機会はどんどん減っていったが、それでも帰り道、君は校門でいつも僕を待っていた。僕に笑いかける君のその顔が夕焼けの空に照らされて、なぜかは分からないけれど、少し切なかった。
──────多分、初恋だったのだと思う。
僕らが住んでいた地域は大変田舎だったもので、小学校と中学校は合体していたし、高校もひとつしか無かった。将来何かやりたいことがある同級生は、この街から巣立ち、どこか遠くの学校へと旅立って行ったが、僕は将来やりたいこともなくて、ぼーっとしている間にするっとこの街の高校に進学した。君もそうだった。
この頃になると、君と僕は毎朝家の前で待ち合わせをして、スクールバスでは隣にたち、下校の時はどちらかが言い出さなくても、帰りは校門の前で片方を待っていた。
今日は僕の方が早く校門に着いた。
─なあ、お前。あの子と付き合ってるのか?
─はぁ!?告白してない!?
─あの子結構モテてるし取られちゃうかもな。
同級生のからかい声が頭の中に響く。
…告白。
夕暮れに照らされたようなオレンジ色ではなく、タコの様に真っ赤になっていたと、君は笑った。
……告白、していたら。
何かが変わったのだろうか。
今は君の最後の言葉だけが耳に残る。
「さようなら」
心の中の風景は、今もあの荒野を写している。
あの日、失った宝物。
あの日、得た新しい居場所。
どれだけ時間が経って、今いる場所が変わっても、
きっとあの荒野はずっと着いて回るのだろう。