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8/14/2025, 3:09:43 PM

──大いなる神との戦いが終わって3年。
戦の跡を鮮明に残していたこの城下町も、今では元通り…とまではいかなくても、以前の活気を取り戻している。

隣に座ってパンを頬張る家族。
壊れたベンチを直す大工の親子。
元気いっぱいの子供たちと遊ぶ兵士たち。
皆が皆、笑顔を浮かべている。
……賑やかだ、本当に。

だけど、君はこの光景に映らない。
アング。僕の大切な仲間。
大切な友人。大切な…恋人。

彼女は大いなる神との戦いの最中、僕を庇って倒れた。 致命傷だった。
アングは、死ぬ最中、何を考えていたのだろう。
何を感じていたのだろう。
僕には何も分からない。
だけど、

君が見た景色を、僕も見てみたい。

8/5/2025, 1:11:19 PM

「ねえねえ、人魚姫の絵本、おぼえてる?」
八月上旬の教室。何故だか知らないが、他の学校より夏休みが遅いせいで、私──リカと、友人のカイリは、この蒸し暑い通学路を歩かされていた。

「人魚姫?」
「そうそう。私たちさ、一緒に小学校で飽きるほど読んでたじゃん?」
「あ〜、言われてみれば……」

王子に恋をした可愛らしい人魚姫。
海の魔女と取引をして声を失い足を手に入れた彼女。

「あれ、最後はどうなったんだっけ。」

カイリに聞かれて考えてみても、
……思い出せない。

「思い出せないわ…あんな何回も読んだのになあ」
「リカも?私もなんだよね」

カイリは笑いながらこちらを見ると、ふと呟いた。
「ね、結末。考えてみない?」

その瞬間、波の音が聞こえた。
辺りは蒸し暑い通学路なんかじゃなくて、冷たくてどこまでも続く海。
「カイリ?」
「リカ。」
カイリがこちらを見つめている。だけど彼女の目線は
とても低い。カイリは座り込んでいる。
彼女の足は、光に照らされてキラキラ輝く鱗に覆われている。いや、足じゃない!
あれは……尾だ。
「びっくりした?」
「……。」
びっくりした。…びっくりした。開いた口が塞がらない。

「もう、リカが突然私の歌が聴きたいって言うから歌ってあげたのにさ〜!」
「…カイリ?」
「うん、カイリだよ。人魚の歌にはげんかくさーよーがあるって知ってたでしょ?」
「あ〜……」
思い出した。

───────
私は貴方と泡になりたい。

8/1/2025, 2:06:02 PM

夏の香りなんてものはもう最近は感じなくて、
ただただ蒸し暑いこの夏も、もう気がつけば8月だ。
お盆の時期か近づくし、君はこの謎の虫が鳴いている田舎に帰省するのかな。それとも何でも揃っている東京に居たままなのかな。
君は優しいから、私が一言「会いたい」って連絡すれば、きっと長い長い電車とタクシーを乗り継いでここに帰ってきてくれる。今までだってそうだった。

だけど、なんだか連絡したくない。胸の当たりがモヤモヤして、外は快晴だっていうのに、私の心の中は曇りすぎている。

連絡しないことだって選べる。

ああ、だけど、
8月、君に会いたい。

7/3/2025, 10:05:51 AM

「遠くへ行きたいな」
白い清潔なシーツの上で、沢山の点滴に繋がれる友は、ポつりとそう呟いた。
「遠くへ、って……」
もうそんなこと耐えられる身体じゃないだろう、と言いきる前に、友は「わかってるさ」とそっぽを向いた。

6/26/2025, 3:12:54 PM

「最後は笑って死にてえな。そしたらさ、今までのぜーんぶのこと、良かったって思えるかもだろ?」

いつも明るくて、周りの人を放っておけない彼は、道に飛び出した子供を庇って─────


……笑顔だった。あの人の顔。
最後の声は聞けなかったけど、多分、笑い声だったんだろうなぁ。

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