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「ねえねえ、人魚姫の絵本、おぼえてる?」
八月上旬の教室。何故だか知らないが、他の学校より夏休みが遅いせいで、私──リカと、友人のカイリは、この蒸し暑い通学路を歩かされていた。

「人魚姫?」
「そうそう。私たちさ、一緒に小学校で飽きるほど読んでたじゃん?」
「あ〜、言われてみれば……」

王子に恋をした可愛らしい人魚姫。
海の魔女と取引をして声を失い足を手に入れた彼女。

「あれ、最後はどうなったんだっけ。」

カイリに聞かれて考えてみても、
……思い出せない。

「思い出せないわ…あんな何回も読んだのになあ」
「リカも?私もなんだよね」

カイリは笑いながらこちらを見ると、ふと呟いた。
「ね、結末。考えてみない?」

その瞬間、波の音が聞こえた。
辺りは蒸し暑い通学路なんかじゃなくて、冷たくてどこまでも続く海。
「カイリ?」
「リカ。」
カイリがこちらを見つめている。だけど彼女の目線は
とても低い。カイリは座り込んでいる。
彼女の足は、光に照らされてキラキラ輝く鱗に覆われている。いや、足じゃない!
あれは……尾だ。
「びっくりした?」
「……。」
びっくりした。…びっくりした。開いた口が塞がらない。

「もう、リカが突然私の歌が聴きたいって言うから歌ってあげたのにさ〜!」
「…カイリ?」
「うん、カイリだよ。人魚の歌にはげんかくさーよーがあるって知ってたでしょ?」
「あ〜……」
思い出した。

───────
私は貴方と泡になりたい。

8/5/2025, 1:11:19 PM