「てぶくろ(創作)」
落とし物の片方の手袋に動物たちが「わたしもいれて」「ぼくもいれて」と次々にやってきて手袋の中で暮らす物語…
私の小さな手袋には、どれだけの人が入るだろう。いつも人に対して壁を作って、中に入ろうとしない私は、ずっと独りだと思っている。
楽しそうに話している中に入ることは、もちろんしない。子どもの頃、母子家庭で忙しかった母を煩わせてはいけはいと我慢してきたのが、原因なんだろうか。ただの、嫉妬なんだろうか。私の知らない事をみんなは知っていて、共通の話題で笑い合える姿を見て、羨ましいと思ってるんだろうか。楽しいことがない訳では無いの。
雲がハート型に見える時も、小さな幸せを見つけたように嬉しく感じるし、信号に引っかからず歩ける時もラッキーなんて思える自分もいる。
あ、そうか…
それは、独りの世界だからなんだ。
あのてぶくろのお話の動物たちも、前に入っている動物が幸せそうだから、楽しそうだから、あったかそうだから、入りたいと思ったに違いない。
私の手袋には、誰も「わたしもいれて」なんて言ってこないだろうと確信を持って言える。
この手袋に入っている私が、まずは楽しそうにしなくてはならないのだ。誰かと一緒にいたいと求めないといけないんだ。
かなり私にとって難関ではあるけれど、できることからやってみよう。
白い息を吐きながら、ムートンの手袋をはめて、自分の頬をおさえた。
「ゆずの香り(創作)」
陶芸の道に進みたくて、大学を卒業したあと愛知県にある窯元に就職した。
陶芸家は「土こね3年、ろくろ8年」といわれるほど、技術を獲得して1人前になるまでに時間のかかる。初任給だけでは到底食べては行けなかった。
「今日の土はどんな感じ?」
ひょっこり顔を出したのは、近所に住む東さんという人だった。東さんはずっとサラリーマンをしていたけど、50歳を過ぎた頃から、どうしてもやりたかった造園業の勉強をして、一人親方で夢を叶えた人だ。夢を叶えたと言うだけで、私にとっては目標となる人だった。
東さんは、籠いっぱいの柚を持ってきてくれた。
「これ、お客さんからもらったの。良かったらもらって。腹の足しにはならないけど」
「嬉しい。いただきます!」
「いつか僕にお皿作ってよ、酒も美味しくなるような皿だぞ」
「まだまだ先だけど、約束する」
受け取った柚を1つ手に持つと、ふかふかで柔らかい。ジューシーなジャムを作るにはちょうどいい。
「お皿はまだ作れないけど、ジャム作って今度持っていくね!」
柚の皮を細かく切る度に、東さんに背中を押された気分になってくる。フレッシュな爽やかな香りに包まれて、私はまた明日へ向かっていく。
「大空(創作)」
何をするにも勇気がない私は、いつも同じところにとどまったまま。
空を見上げると悠々と飛ぶ鳥が、弧を描いて飛んでいった。
「絵で生きていきたいんだ…」
両親に相談するも、「 売れる人なんて氷山の一角。簡単になれるもんじゃない」と言われて、そうかと納得してしまい、直ぐに諦めた。
本気でやりたいなら、そんな言葉を蹴飛ばすくらいの勢いで立ち向かうはずのに、少しも抵抗することなく、、じゃあ辞めようかなと別の道を選んだ。
それでも絵を描くことが好きで、SNSに出すと、すごく褒めてくれて、いいねを沢山貰うことが出来る。もしかして私、絵で食べて行けるかもしれないとさえ思ってしまう。
ただ、この道でやるんだ!という決意がなかなか持てなかった。まだ、若いんだし…という言葉を聞く度に、何度も羽ばたこうと頑張ったが、上手い人の絵を見ては、巣から出られない雛鳥のようにじたばたともがく。努力もしないのに、もがくだけ。
私も、飛びたい。飛びたい。
飛び出そう。あの大空に。
「とりとめもない話(創作)」
食器がカチャンと重なる音。ドアが開きお客さんが入ってくる音。どこの国だか分からない、民族風の音楽。そして会話。
「旦那がさぁ、今度、転勤らしくて」
「単身?! 家族で行く?」
「まだ決まってないの… 」
わたしの目の前に座っている2人の友人が話出した。そこに私の隣の友人が加わる。
「出張とか転勤とか、味わってみたーい」
「何言ってるの。ほんとに大変なんだから」
と、私も話に加わると、自然に違う会話へと移り変わる。
「昨日、私の推しの歌番組見てくれた?めっちゃ、かっこよかったァ」
「見て!と言われたから見たよ。いいなぁ、推しのいる生活!」
「作りなよー!毎日楽しいよ」
「ところでさ、このコーヒーすごく美味しい」
話を止めて、みんなで頷く。次はわたしが話す番!と決めなくても、改めて見ると、私達の口からは、泉のように話題が溢れ出る。それがなんだか面白くて、くすっと笑ってしまった。
「え?!何、、笑ってんのー気持ち悪いー。あ、気持ち悪いといえばさ! 」
とりとめもない話は、あと3時間続くだろう。
「雪を待つ(創作)」
朝から寒いなぁって思っていたら、パパもママも肩をすぼめて「寒い 」って言ってた。
ぱあーっとカーテンを開けたら、ふわふわしたものが上から降っていて、庭も真っ白になってて、前が見えないくらいだった。
こ、これはなんなんだ?!
僕が一瞬固まったのを見て、パパとママがくすくすと笑った。
そんなことはお構い無し!ママが窓を開けた瞬間僕は、外に飛び出した。
冷たい白いものに包まれて、なんだか楽しくなって大はしゃぎしちゃった。
全身ベタベタになったけど、はしゃいでいたから全然寒くなかったよ。
あの時は楽しかったなぁ。
また降らないかなぁ、白いふわふわして、冷たいの。
今いる部屋は、あたたかくて、ウトウト眠くなっちゃうけど·····ふぁーーー
「あ、雪!」
ママが、嬉しそうな声で言った。
え?!雪?!
僕は、喜びのあまり、ちぎれるほどしっぽを振った。