「眠れないほど(創作)」
防寒着よし。双眼鏡は持った。小腹がすいた時に食べる菓子パンももった。
私の趣味は、バードウォッチングだ。どこの鳥スポットに行こうか考えるのも楽しみだし、実際にも行ったりする。
今日は、鳥仲間と一緒に出かけている。
「今日は見れるといいですよね」
「なかなか、見れないですもんね」
今、私に話しかけて来てくれた人は、大学の教授で15年アオサギの研究をしている人だ。
教授が眠れないほど待ちわびている瞬間がある。
それは、アオサギのフンをしているところ。アオサギの中には、草むらに隠れてフンをする個体がいるそうだけど、なかなか見かけないとの事で、話を聞いていたら私まで見たくなってしまった。
教授との出会いが私のバーダー歴に拍車をかけ、眠れないほど私も、アオサギのことを毎日考えている。
アオサギもそんな瞬間は見られたくないだろうけど、もう少し私のロマンに付き合ってもらおうと思う。
「夢と現実(創作)」
春の花粉症がやっと治まったところで、秋の花粉症がくる。この時期は乾燥もしていてタチが悪い。風邪なのか、アレルギーなのか分からない鼻水鼻づまり、くしゃみの連続だった。
あまりにも酷すぎたから耳鼻科に行って、薬を飲んで、1週間を過ぎた頃だった。
朝起きるのが辛い。起きても疲れが取れない。下を向くと瞼が閉じていく。それでも仕事には行かないといけない…なんなんだろう、これは…。
自分の体なのに自分ではないような感覚に襲われていた。
その日の夜、眠くて仕方なかったので早めに寝る事にした。
あれ?体が動かない…あれ?
なんか重い…重い…
ぼんやりと白い着物を着た前髪の長い女性が私の上に乗っている。
怖い、怖い、怖い。
その人が少しづつ私に近づいてきて、私の中に入ろうとしている。
いやーーーー、怖い、怖い怖い!
どいてちょうだい!、私の体に入ったって、いい事ないわ!!!!
いや、あなたなんて怖くないんだから!!早くどいて!!!!!
「ぷふぁ!!!」
変な声と空気が、私の体から抜けた感じがして、やっと現実に戻ってこれた…心臓が走った後みたいに、脈打っていた。
あれは、夢なの?現実なの?
胸に手を当てながら考えた。
鼻炎の薬は眠くなる成分が入っていると注意書きに書いてあったのを思い出した。
あまりの怖さに、“薬が効き過ぎている”という事にして、処方を変えてもらおうと思った。
「さよならは言わないで(創作)」
桜が大好きなあなた。
今年もいろんな所で、桜を見に行ったよね。
私が夏が苦手な事を知っていたからなのか、あまり出かけたがらず、家でボードゲームをした方が多かったかな。
秋は紅葉も見に行った。行けない時は、視線を軽くあげて、赤や黄色に変わっていく街路樹を見て楽しんだよね。落ち葉をふむ度に聞こえてるく音も、とてみ綺麗だった。それだけで心が豊かになった気分だった。
冬はコタツに入ってみかんを食べたり、ぎゅっとくっついてお互いの体温を共有するようにお散歩もしたよね。
「来年の桜は見れるかな…見たいな」
そう言ってあなたは、3月に旅立ってしまった。遠い遠い世界へ。桜のつぼみも、あなたを待っていたのに、先に逝ってしまった。
あなたのいない世界は、ただただ灰色で、この先、私の世界に色彩が現れることがあるのでしょうか。
それまでは、あなたと向き合って生きていこうと思います。抗うことなく、あなたがいない現実を受け止めながら、
私、もう、大丈夫!!
って言える日まで。
「距離(創作)」
「今週の日曜日、草野球の練習試合なんだけど応援に来てくれない?」
「え?いいの?行きたい!」
その日を今か今かと待ちわびて、差し入れの弁当を作って、いそいそと試合が行われるグランドに向かった。
到着した時は、1回の表。
少し離れたフェンスから、バッターボックスに立つ彼に小さく手を振った。彼はすぐに気がついてくれて、こくりと小さく頷いて、試合に集中する。
カキーンとボールの中心を捉えた音が鳴り響いた。
「やった!」
思わず大きな声を出してしまって、口に手をやって肩を窄めた。
「パパー!ホームラーン!!」
「すごいね、パパ!」
甲高い子どもの声と、女性の声がした方を振り向くと、彼に向かって2人が笑顔で手を振っていた。
私と2人の距離は、そう離れていない…
その声に気が付かないはずもなく、彼も振り向いて2人に手を振り返したあと、私とバッチリ目が合ってしまった。
どういうこと?
私と2人の距離は、そう離れていない…
「泣かないで(創作)」
なんでこうなってしまったんだろう。
…突然私の気持ちが冷めてしまった。
どうやって話を切り出そうか…そんなことを思いながら、ひとりカフェで彼を待った。
しばらくして、嫌な予感がしていたのか、少し浮かない表情を浮かべながら彼は私の前に座った。
「今から話すことって、嫌な話?」
「まあ…そうかな」
彼は、唇を軽く噛んで俯いた。
しばらく足元を見ている彼の目から涙が、ポツリ、ポツリとこぼれ落ちた。
「別れ話しようとしてるんでしょ?!俺は別れたくない。何がいけなかったの?」
「そうじゃ無くて…5分おきにLINE入れるのやめてくれないかな?最初は嬉しかったんだけど…対応出来ないし」
彼は私のことが大好きで、頻繁に連絡を取りたがる。特に束縛をする訳では無かったが、5分おきのLINEはしょうじき、しんどくなっていた。
友達に言わせれば、よく1年も頑張ったと。私の気持ちが冷めたのではなく、当たり前の感情だと言ってくれた。
「別れ話じゃないんだね? 」
ほっとした顔で彼が微笑んだ。
「5分おきは辞めるよ!10分おきにする」
「だから、そういう事じゃなくて…」
はぁと大きくため息をついた。
別れを切り出すのも時間の問題だった。